韓国の妊産婦配慮席(임산부배려석)についてツイッターで紹介したところ、思ったより反応があったのでブログにまとめたい。
日本でも痛ましい事件が絶えないが、韓国でも妊産婦が満員電車に乗車する際に十分な配慮がされにくいことは社会問題であると認識されている。そこで、ソウル首都圏や釜山、その他大都市の多くの地下鉄やバスで妊産婦配慮席というのが配置されている。これは従来の老弱者席とは別個である。

出典: https://m.insight.co.kr/news/215717
これが妊産婦配慮席である。ソウルに旅行に来たことのある人なら、空港とソウルを結ぶ空港鉄道という列車の車内や、ソウル市内の地下鉄車内で見たことがあるのではないだろうか。
この妊産婦配慮席だが、誕生のみならず運用でもかなり苦労しているようだ。本来は妊産婦のために設けられた席だが、そもそも誰が妊産婦なのかは見た目では分からないことも多い。 また、ラッシュアワーに利用してみればわかるが、混雑時にはこの席だけを空けておくことはまずない。
上の写真(ネットでの拾い物)のように、ソウル首都圏の空港鉄道では、人形を置いておくことで、本来は妊産婦配慮席は妊婦専用の席であることを訴えている。乗客は人形をわざわざどかさないと座れない。だがもちろん、人形など意に介さず座ってしまう乗客も多い。年配の乗客などはこの人形の「上に」座っているのを時々見かける。また、前述のように混雑時にはそもそも妊産婦配慮席を空けておくことのほうが珍しい。
地下鉄の車内だけでなく、インターネット上でも論争が見られる。女性嫌悪的なコメントは、妊産婦に配慮すること自体に懐疑的なスタンスから妊産婦や女性全般を攻撃している。ここでは、論争について紹介したオンライン上の記事を一つ紹介しておくにとどめよう。
「一か月に5600件の問い合わせ…地下鉄妊産婦配慮席の”配慮にかける”現実」韓国日報
ではどうすればいいのか?妊産婦は体力的に大衆交通の利用が困難なのは明らかだ。妊産婦に配慮することは社会的に当然に見える。他方で、悪意のある乗客や、悪意はなくとも配慮する気のない乗客も多数いる。これらを考慮しつつ必要な時に妊産婦が配慮席に座ることができる運用が実現できないだろうか?
一つの解決案が釜山から提示されている。釜山地下鉄では「ピンクライト」というシステムが導入されている。これは妊産婦配慮席に固定ライト(「ピンクライト」)を設置し、一定の手続きに従って妊産婦に配布された「ビーコン」を操作するとピンクライトが光るというものだ。

出典: http://m.etnews.com/20191231000060

出典: http://www.kookje.co.kr/news2011/asp/newsbody.asp?code=0300&key=20180917.99099006987
ピンクライトは、妊産婦配慮席に既に乗客が座ってしまっている状態で、席を譲るよう声をかけるのがためらわれるという妊産婦の声にこたえる形で導入されたらしい。ライトが光ったら妊産婦が近くにいる、あの妊娠マークを見たら譲りましょう、という啓蒙とセットで運用されている。
また、ソウル大学のスタートアップ와이닷츠(WhyDots)は、ビーコンのアプリ代用によるピンクライト導入を交通公社に提案した。この提案は受け入れられなかったが、「ホームに来る電車の妊産婦配慮席をアプリで事前に予約」というUXはかなりいい線行っていたと思う。
ちなみに 僕が何故そんなマニアックなプロジェクトまで知っているかというと、そのスタートアップに一瞬だけ絡んでいたから。WhyDotsはその後ピンクライト関連からピボットして、認知症予防用の喋るロボットの開発に取り組んでいるので興味ある人は調べて見てほしい。
3Dプリンターを使って起業する韓国のスタートアップに関する報道
話がちょっと脱線してしまったが、韓国では社会問題に対して結構真正面から取り組んでいるということが言いたかった。交通公社が妊産婦配慮席を作ったのもそうだし、ピンクライトを追加したのもそうだし、さらには元気のいいスタートアップがテクノロジーでそれを改良しようともしている。
本来ならば、妊産婦配慮席など無くても乗客が席を譲ってくれるのが一番いい。僕もプロジェクトに関わる中で、妊産婦対象のアンケートを取ったことがある。その中で本当に多くの妊産婦が、身体的な苦痛に加えて社会からの悪意に苦しんでいることを知った。女性にしか見えない世界が確かにあった。
参考
ツイッターのハッシュタグ #男と女で見えてる景色が違う