スタートアップとは「組織」ではない。客を見つける「行為」なのだ。
人々が、”自分ですら気づいていない”本当の問題を解決するための行為をスタートアップと呼ぶ。
自分ですら気づいていなかった本当の課題とは、偏見を持たず、じっくりと人々と会話することによってのみ、目の前に立ち現れる。
決して答えありきの質問をしてはならない。オープンクエスチョンの連続で、辛抱強く、一つ一つ聞き込みをしなければならない。探偵のように。
そして、人々が気づいていなかった”偏頭痛級の痛み”を見つけるまでその探偵チックな行為を繰り返す。この一連の行為のことをスタートアップと言う。
スタートアップは、したがって、企業などの組織のことを指すわけではない。
スタートアップとは行為なのだ。探偵なのだ。客を見つける探偵行為なのだ。真実はいつも一つ。
そして、スタートアップすることで”偏頭痛級の痛み”を持つ”客”を見つけるまでは、人は何もしてはいけない。勤めている会社を辞めてはいけない。貯金をおろして来てプロダクトを開発してもいけない。ただただ、”客”を見つけるまで探偵を続ける。
”客”とは、口先だけでなく実際にクレジットカードの番号を入力する、くらいの本気度をもって、探偵の提示した解決案に食いつく人のことである。
その解決案を提示するために、スケッチを描くとか、デモ動画を作るくらいはしてもいい。だが必要最低限の金のみを使うべきだ。
”客”を見つけて、売り上げが立つことが確信できて初めて、人は客のためのプロダクトを作り始めてよい。そのために人を雇って会社を作るくらいのことはしてもいいかもしれない。だがそれはもうスタートアップではない。スタートアップとは、客が見つかるまでの辛抱強い、疑い強い、偏見を持たない、探偵稼業のことなのだから。
ダイアナ・キャンダー (著), 牧野 洋 (翻訳)
STARTUP(スタートアップ):アイデアから利益を生みだす組織マネジメント
新潮社、2017年