【読書】ジム・ロジャーズ『これから5年の韓半島投資シナリオ』【日本語未訳】

この記事ではジム・ロジャーズ『これから5年の韓半島投資シナリオ』(日本語訳無し)の内容のまとめと感想を紹介したい。
ジム・ロジャーズ氏はヘッジファンドでの伝説的なリターンや、中国の台頭を予言したこと、シンガポールに移住したこと、最近では北朝鮮の経済発展に楽観的であること等、何かと話題の多い人物である。日本語での刊行物も数多く存在する。
この記事で紹介する本書は、今のところ(2020年3月現在)韓国語版しか入手できず、日本語版はおろか英語版も存在しない。にもかかわらず、特に日本人にとっては衝撃的な予測が含まれることから、著作権を尊重しつつ私の能力の及ぶ範囲で、主に本書の構成に沿いながらその内容を紹介したい。
なお、タイトルにある「韓半島」という単語は英語ではKorean Peninsulaとなり、日本語では慣習的に「朝鮮半島」と訳されるが、本記事内では原著の表記を尊重し「韓半島」で統一した。

http://www.yes24.com/Product/Goods/82741718

本書について

基本情報

짐 로저스, 백우진 “짐 로저스 앞으로 5년 한반도 투자 시나리오”, 비즈니스북스, 2019년

ジム・ロジャーズ、ぺ・ウジン著
『ジム・ロジャーズ これから5年の韓半島投資シナリオ』
ビジネスブックス、2019年
(※ただし、日本語訳は2020年3月2日時点では出ていない。)

Jim Rogers and Woo Jin Baek,
“Jim Rogers’ Big Picture:
Why Han Ban Do is Going to be the Most Exciting Place in the World for the Next 10-20 Years”
The Business Books and Co., Ltd., Seoul, 2019
(※英語版も2020年3月2日時点では確認できない。)

筆者ジム・ロジャーズ氏について

ジム・ロジャーズ(Jim Rogers)氏はアメリカ出身の投資家で、ロジャーズ・ホールディングス会長である。1973年、ジョージ・ソロス(George Soros)とともに立ち上げたクォンタム・ファンド(Quantum Fund)は10年間で4,200%という驚異的な利益率を誇る、伝説的なヘッジファンドである。クォンタム・ファンド引退後、世界各地をオートバイなどに乗って自分で見聞する、「冒険投資家」スタイルを確立し主に新興国を中心に投資を行う。特に中国の台頭に早くから言及し、自分の娘に中国語教育を施すためにシンガポールに移住してしまうほど中国経済の将来に確信を持っていることでも知られる。

共著者ペク・ウジン氏について

韓国随一の名門大学であるソウル大学及び大学院で経済学を専攻したのち、『東亜日報』等で経済担当、金大中(キム・デジュン)政権で経済政策の広報担当を歴任した経済・株式市場を得意とするジャーナリスト。現在は著述家、翻訳家としても活躍中。

この本の形式と出版状況について

(以下の内容は2020年3月2日現在のものである)
この本の出版形式および状況について簡単に説明したい。韓国で出版された本の裏表紙によると、この本の原題は”Jim Rogers’ Big Picture:
Why Han Ban Do is Going to be the Most Exciting Place in the World for the Next 10-20 Years”という英語タイトルとなっている。しかし、インターネットを検索しても同様のタイトルの英語書籍を見つけることは出来なかった。本書は経済を得意とするジャーナリストのペク・ウジン氏との共著という形を取っており、本論をジム・ロジャーズ氏が、韓国・北朝鮮の社会経済関連のコラムをペク・ウジン氏が担当している。したがって、ジム・ロジャーズ氏が英語で執筆した部分は刊行物としては表れていない模様である。

本書の目次

第1章 決して揺らぐことのない6つの投資原則
    ・危機に出くわさない投資は存在しない
    ・歴史のリズムに合わせてストリートで答えを探す
    ・他人の言葉は全て間違っている
    ・好材料を得たら何もするな
    ・疑問を招かない投資は必ず失敗する
    ・情熱を持つことに、お金は必ずついてくる

第2章 世界唯一の分断国家に注目する理由
    
・ミャンマー、ベトナム、中国に続き…歴史が示す投資先「北朝鮮」
    ・2回の訪問で全く違う平壌を目にする
     【韓半島レポート】現在の北朝鮮市場の状況は?
    ・逆戻りできない市場経済の動き
     【韓半島レポート】北朝鮮政府が抱えるジレンマ
    ・金、銀、鉄道資源…資本が流れ込む土地
     【韓半島レポート】北朝鮮のドル市場の可能性はどのくらいか
    ・韓国に積極的に投資をしない理由
    ・韓国株式市場と投資の対価と私

第3章 2020‐2040 韓半島経済統合シナリオ
    
・2020年末、南北の交流が始まる
     【韓半島レポート】ドイツが羨む開城(ケソン)公団10年の実験
    ・南北が解決すべき格差1:人口・経済
    ・南北が解決すべき格差2:産業
     【韓半島レポート】北朝鮮経済の血脈「チャンマダン」に注目せよ
    ・北の核問題、長期化の可能性あり
     【韓半島レポート】北朝鮮は果たして核を放棄するだろうか
    ・経済統合された韓半島を警戒する国家、日本

第4章 経済統合された韓半島投資の未来
    ・韓半島の上に描かれる3つの経済ベルト

     【韓半島レポート】羅津(ラジン)・琿春・ハサンの三角地帯が核心だ
    ・世界的観光地に生まれ変わる非武装地帯と東海岸
    ・南北経済協力の中心、「資源」に注目せよ
     【韓半島レポート】韓国企業が心配すべき北朝鮮資源開発問題
    ・韓半島の平和を期待する東北アジアエネルギー協力プロジェクト
     【韓半島レポート】東北アジア経済協力の中心、「エネルギー」
    ・ユーラシアを揺るがす新しい鉄道と航路時代の始まり
     【韓半島レポート】文在寅大統領の構想「東アジア鉄道共同体」

第5章 これから5年、新グローバル投資の地平
    ・ブル・マーケット(強気市場)が終わりベア・マーケット(弱気市場)が来る
    ・トランプが読んだ保護貿易主義の暗雲
    ・沈みゆく日本に警告する
    ・中国の露骨な大国崛起とその後
    ・ロシアに対する楽観論に転向した理由

本書の内容(各章別)

第1章 決して揺らぐことのない6つの投資原則
    ・危機に出くわさない投資は存在しない
    ・歴史のリズムに合わせてストリートで答えを探す
    ・他人の言葉は全て間違っている
    ・好材料を得たら何もするな
    ・疑問を招かない投資は必ず失敗する
    ・情熱を持つことに、お金は必ずついてくる

要約
徹底的な分析を通してのみ機会をつかむことができる。マクロな視点を持っていればこそ、オイルショックの中でも収益を得ることができた。
歴史の答えは、常にストリートに潜んでいる。数回にわたりオートバイで世界一周を行った理由だ。
クオンタム・ファンドや、その後の投資人生で何度も大きな節目に立ち会ってきた。損もしたこともあるが、そういう時は他人の意見に振り回されたときだった。自分の意見を貫くこと、そのための徹底的な調査が何よりも重要だ。
投資は忍耐である。失敗も恐ろしいが、成功したときに下手に動くと逆に転落が待っている。何か好材料を得たり成功したときには、調子に乗って不用意な投資をするよりはビーチにでも行って何もしないほうがむしろ安全だ。
自分がよく知り、しっかり判断することができる分野にこそ投資をするべきだ。

第2章 世界唯一の分断国家に注目する理由
    ・ミャンマー、ベトナム、中国に続き…歴史が示す投資先「北朝鮮」
     閉ざされた扉が開く瞬間を決して逃すな
    ・2回の訪問で全く違う平壌を目にする
     2007年金正日の北朝鮮、2014年金正恩の北朝鮮
     【韓半島レポート】現在の北朝鮮市場の状況は?
      7・1措置は計画経済の失敗を認めるもの/金融市場と労働市場も共に活性化
    ・逆戻りできない市場経済の動き
     北朝鮮の経済特区とチャンマダンに注目せよ/市場経済の円滑な軟着陸を望む
     【韓半島レポート】北朝鮮政府が抱えるジレンマ
      貨幣改革等市場に対する反撃の失敗/市場化は既に広く深く根をはっている
    ・金、銀、鉄道資源…資本が流れ込む土地
     羅先(ナソン)経済特区で目撃された巨大な変化の兆候/機会の安値買いを狙う国々 
     【韓半島レポート】北朝鮮のドル市場の可能性はどのくらいか
     トンジュがリードする市場化が全方向に拡散する/ドル化の3つの要因:チャンマダン、物価、貨幣改革
    ・韓国に積極的に投資をしない理由
     韓国経済が抱える問題/経済危機を抜け出せる悲壮なカード
    ・韓国株式市場と投資の大家と私
     ピーター・リンチ、韓国に早く来すぎた投資家/テンプルトン、韓国通貨危機の時に来た投資家/ウォーレン・バフェット、低評価の時に来た投資家

要約
2018年から本格化した南北融和の流れは、1972年に米ニクソン大統領が中国の毛沢東主席と会談し始まった国交正常化、改革開放の流れに匹敵する歴史的な動きである。投資家であれば、閉ざされていたドアが開く瞬間を決して逃すべきではない。
平壌には2007年と2014年の二回訪問した。とても閉鎖的だった2007年の印象とは全く異なり、2014年には資本主義の息吹を社会のいたるところで感じることができた。数多くの自由貿易地区、観光客向けの自転車ツアー、サービスの改善された飲食店などが印象的だ。羅先(ラソン)経済特区でのチャンマダン(マーケット)での市場の活況も特筆に値する。
北朝鮮の経済特区とチャンマダンには特に注目すべきである。2014年の訪問時、北朝鮮の住民たちはチャンマダンでの商取引を通じて利益を上げているのは紛れもない事実だった。
北朝鮮の魅力の一つは、その土地そのものだ。豊富な自然資源に支えられた北朝鮮の金貨や銀貨は投資対象になるかもしれない。また、ロシアや中国も虎視眈々と狙う天然資源の存在も大きい。
実は韓国には投資先としての魅力は感じない。少子高齢化の問題を抱えている。しかし、南北の経済統合に大きな機会があると考えている。
振り返ってみれば、数多くの米国の投資の大家たちが韓国に注目してきた。ピーター・リンチは1960年代に韓国に注目したので少し早すぎたかもしれない。テンプルトンはIMF危機後に韓国に注目した。ウォーレン・バフェットは韓国株が低評価されていた2000年代前半にポスコなどの株に投資し、利益を上げている。

第3章 2020‐2040 韓半島経済統合シナリオ
    ・2020年末、南北の交流が始まる
     壁が崩れる瞬間、巨大な資本が流れ込む
     【韓半島レポート】ドイツが羨む開城(ケソン)公団10年の実験
     中国や韓国よりも生産効率、品質が優秀/入居者の78%が未来を楽観、69%が拡大の意向/開城(ケソン)が再びドアを開く日
    ・南北が解決すべき格差1:人口・経済
     南北朝鮮の人口とGDP格差が意味するもの/人口8千万の経済大国、世界2位に急浮上する朝鮮半島
    ・南北が解決すべき格差2:産業
     北朝鮮産業分野の潜在的力量と可能性/北朝鮮貿易の活路を開く韓国
     【韓半島レポート】北朝鮮経済の血脈「チャンマダン」に注目せよ
     総合市場中心に関連産業が発達/食品加工業は中国産をすぐに圧倒/
    ・北の核問題、長期化の可能性あり
     駐韓米軍の動きはどうなる/老練な交渉専門家と鋭敏な若い指導者の取引
     【韓半島レポート】北朝鮮は果たして核を放棄するだろうか
     北朝鮮の核問題、キムジョンウンだけでは解決できない/米国は全面的かつ検証可能な非核化を要求/「核を放棄すればフセインのように没落する」と考える北朝鮮/北朝鮮の核問題、4つの選択肢
    ・経済統合された韓半島を警戒する国家、日本
     「安倍よ、狂った真似をやめて辞任せよ」と言った理由/日本を越える経済統合された韓半島の到来を直視すべき

要約
南北の対立が終結した際には、莫大な額の軍事費負担が解消されることが確実である。その分、経済協力に回すことができる。もちろん、対北投資への規制動向については注視しなければならない。
南北が解消すべき格差もある。まずは人口や経済だ。北の人口は南の半分ほどだ。GDPベースでは北は南の20分の1ほどしかない(韓国銀行、2016年基準)。しかし南北経済協力後の世界では、人口は南北合わせて8,000万人、GDPも日本の規模を軽く超えるだろう。
また、南北が解消すべき格差の他の例としては産業がある。北の産業はサービス業(32%)、農林漁業(23%)、製造業(20%)、鉱業(12%)の順だが、特に農業の生産性は低い。経済協力に伴い、生産性は飛躍的に向上するだろう。また、観光やインフラ産業は特に発展が期待できる。数十年世界から孤立していた国の様子が知りたいのは人の性だし、現在の劣悪なインフラを改善するための需要は大きいだろう。
北朝鮮による核開発問題は長期化する可能性がある。核開発問題を考える時には、駐韓米軍という変数を考える必要がある。トランプ大統領と金正恩総書記は会談を繰り返しているが、楽観的になるべきではない。
韓半島に歴史的因縁があり、南北融和の動きを恐々として見ているのが日本だ。私は日本びいきではあるが安倍総理による経済政策は狂っていると感じる。世界経済は新たな成長エンジンを渇望しており、統一された韓半島への動きは世界の支持を集めるだろう。北朝鮮の地に埋まる豊富な天然資源や廉価な労働力は魅力的だ。また、次の世紀に世界経済を動かすことになる東アジア市場に世界のあらゆる資本が集まるだろう。その流れの中で日本にも数多くの機会が生まれるはずだ。日本は経済統合された韓半島の到来を避けようとせず、今からでも新しい時代の変化に対応できるよう準備すべきだ。

第4章 経済統合された韓半島投資の未来
    ・韓半島の上に描かれる3つの経済ベルト
     経済統合された韓半島の上に描かれる3つの核心ベルト
     【韓半島レポート】羅津(ラジン)・琿春・ハサンの三角地帯が核心だ
     羅津(ラジン)―ハサン事業拡大は文在寅政府にかかっている
    ・世界的観光地に生まれ変わる非武装地帯と東海岸
     DMZは平和・エコロジー観光地として注目を集める/期待できる東海岸の驚くべき変化
    ・南北経済協力の中心、「資源」に注目せよ
     南北の組み合わせに最も適した経済協力分野「資源」
     【韓半島レポート】韓国企業が心配すべき北朝鮮資源開発問題
     韓国企業が逃してはならない「レアメタル」/グラファイト江山の開発を通して観る事業推進の難関/南北はどのように収益を分配すべきか
    ・韓半島の平和を期待する東北アジアエネルギー協力プロジェクト
     エネルギーを中心に関係強化に至った中国とロシア/南北そしてロシアの3か国を通るガスパイプラインプロジェクトの未来
     【韓半島レポート】東北アジア経済協力の中心、「エネルギー」
     韓国ーロシアガスパイプライン、2004年に初合意/韓中ロシアのガスパイプライン等の代案もある
    ・ユーラシアを揺るがす新しい鉄道と航路時代の始まり
     大陸横断鉄道と北極航路が描き出す新たな投資の地平/北極航路を利用する諸国家/韓国造船社、第2次ヤマルプロジェクトの受注に関心
     【韓半島レポート】文在寅大統領の構想「東アジア鉄道共同体」
     韓国、国際鉄道協力機構に正会員加入/新北方政策にロシア、東北三省、モンゴルなど/鉄道運送は海運・航空運送とは違う競争力を持つ/超高速貨物、TSRなら釜山(プサン)からモスクワまで27時間

要約
韓半島の上に3つの経済ベルトが生まれることになる。
1.西海岸の産業、物流、交通ベルト:開城公団の拡大・開発から、仁川、ソウル、開城、平壌、新義州を通り北京まで開発
2.東海岸のエネルギー・資源ベルト:韓国、北朝鮮、ロシアをつなぐ。また、東海岸は観光地としても発展するポテンシャルを秘めている。
3.DMZ(非武装地帯)の環境・観光ベルト:エコロジー・平和安保観光地区、文化交流センター

北朝鮮の経済的開発対象の鉱物・資源には以下のものがある。
金属鉱物(19種類):金・銀・銅・鉄・鉛・亜鉛・タングステン・モリブデン・チタン・マンガン・クローム・ビスマス・カドミウム・ニッケル・アンチモン・コバルト・ニオブ・セリウム・イトリウム
非金属鉱物(20種類):マグネサイト・石灰石・鱗狀黑鉛・滑石・リン鉱石・蛍石・重晶石・蠟石・長石・雲母・ネフライト・硅石・二酸化ケイ素・サーペンティン・カオリナイト・ダイアマイト・アスベスト・アンダルサイト・ウラストナイト・水晶
エネルギー資源(4種類):無煙炭・有煙炭・石油・ウラニウム

鉄道の開発はただ単に南北が直接結ばれる以上のインパクトがある。南部の釜山から中国やロシアを通り、シベリアを経由してモスクワや遥かヨーロッパまで陸路による輸送が可能になる。
また、北極航路のインパクトも大きい。釜山からサハリン、ベーリング海峡を通り北極を横断しヨーロッパのデンマークまで船で行けるようになれば、朝鮮半島は今のシンガポールのような地理的要所となる。

第5章 これから5年、新グローバル投資の地平
    ・ブル・マーケット(強気市場)が終わりベア・マーケット(弱気市場)が来る
     2020年貿易戦争と為替戦争が呼び寄せるベア・マーケット/手遅れになる前に投資安全地帯に向かえ
    ・トランプが呼び寄せた保護貿易主義の暗雲
     トランプが扉を開き、憂鬱な予言が現実に/近隣窮乏化政策は今回も失敗する
    ・沈みゆく日本に警告する
     日本政府の介入が招くバブルの呪縛/日本経済の3つの危険要素/今の景気浮上策は長続きしない
    ・中国の露骨な大国崛起とその後
     中国指導部に技術専攻出身者がひしめく理由/千人計画・万人計画・経済躍進の原動力/止められない大国崛起の始まり/アメリカが貿易戦争を始めた理由/中国に埋め込まれたリスク、低出産率と増大する負債
    ・ロシアに対する楽観論に転向した理由
     ロシアに吹く変化の風/ロシアが描くポジティブな経済指標


要約
早ければ2020年の初頭に世界経済に赤信号が点滅するだろう。ブル・マーケット(強気市場)が終わりベア・マーケット(弱気市場)が始まる。心配なのは多くの国で政府負債が大きいことだ。それは金融危機を増強させることを意味する。投資家であれば、今からでも安全資産に逃避すべきだ。
トランプ大統領は中国などを相手に貿易戦争を始めてしまった。これは世界各国で保護貿易政策を誘発するだろうが、近隣窮乏化政策は必ず失敗するのが歴史の教訓である。
日本では日銀が株式市場を買い支えている。しかしこの政策は長続きできないだろう。日本は自らが抱える構造的な問題の解決に力を注ぐべきだ。生産可能人口の減少・排他的な社会・政府負債は深刻な問題だ。移民も受け入れず、人口が減るばかりの国で借金が増えるなら30年後どうなっているだろうか。アベノミクスは未来の問題を更に深刻にしている。
中国は、建国以降指導部に理工系の人材を大量に登用してきた。辛酸をなめた近代史の記憶があるからだが、その成果もあって現在中国の特許出願数は世界一である。また、海外で学んだ優秀な学者を帰国させ、産業発展に寄与させる通称「百人計画」、その拡大版の「千人計画」の力も大きい。覇権国である米国は、中国の発展を警戒している。特に、国家安保に直結する5G技術に関連して華為(Huawei)を攻撃するのは、その一環である。一方、中国経済にも内在する弱点がある。少子高齢化と負債である。
ロシアについては、もともと悲観的だった。冷戦時代から投資先を探してきたが、つい最近になるまではうまくいくと思わなかった。しかし、変化の兆しが表れている。特に経済指標は好調であり、多くの経済評論家が悲観している今はむしろ投資の好機である。

以上が本書の内容の要約である。

基本的にジム・ロジャーズ氏は現地を見て判断するタイプということで、氏が2回北朝鮮に足を運び、自ら見聞した内容を基に北朝鮮、韓半島の経済成長を予測していることが分かる。

注意したいのは、本書の中で「経済統合された韓半島」という言葉は使われていても、「統一コリア」という言葉は使われていないということだ。「経済統合された韓半島」という言葉には、「政治的にはどうなるか分からないが、経済的には南北が統一される」という微妙なニュアンスが含まれることに留意されたい。ジム・ロジャーズ氏は韓半島の政治的未来は、不透明であると認めている。核開発問題についても、特に駐韓米軍がネックになり長期化すると述べており、政治的にはかなり慎重であると言える。

それにも関わらず経済面で楽観しているのは、金正恩という新しい世代の指導者を戴くことで経済政策を完全に転換したことをジム・ロジャーズ氏が確信しているからだと思われる。本書を読んでいても、見聞内容やデータからその確信はひしひしと伝わってくる。

なお、参考までに本書と関係のある日本語書籍を紹介して本記事の結びとしたい。

お金の流れで読む 日本と世界の未来 世界的投資家は予見する (PHP新書) Kindle版

日本への警告 米中朝鮮半島の激変から人とお金の動きを見抜く (講談社+α新書) Kindle版

Published by Atsushi

I am a Japanese blogger in Korea. I write about my life with my Korean wife and random thoughts on business, motivation, entertainment, and so on.

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