
『サイコだけど大丈夫』というタイトルには、複数の意味がある。自閉症のような発達障がいがあっても、「普通」の人と同じように生きて、幸せを追求する権利があるという意味もあるし、他人に共感することのできないサイコパスのような自己愛が強い人間でも、周りの人間といつしか折り合いをつけて幸せに生きていくことができるはずだ、という意味もあるだろう。
美男美女の恋愛は観ていて美しいものの、このドラマの主人公はやはりムン・サンテである。少年時代に遭遇した事件のトラウマに囚われていたサンテは、1年に1回その悪夢を見てトラウマがよみがえり、逃げるようにして弟のガンテと共に居を転々としていた。そして、偶然にも少年時代に住んでいた町に再び戻ることになる(チャンポンが美味しい店もある)。
サンテの夢はキャンピングカーを買うことである。自分のせいで居を転々とする不安定な生活を弟に強いていることを気にしているサンテは、キャンピングカーを買えば気ままに全国を渡り歩いて暮せると考え、アルバイトを始める。サンテとガンテの兄弟に何故か毎年ついて引っ越しする変わり者のジェスのピザ屋で、アルバイトをする。また、掛け持ちでガンテの勤務する精神病院で壁画を描くアルバイトもする。謝礼は「出来を見て決める」という心もとない条件だったが。
そんな中、弟ガンテのことが「欲しい」と欲を出した童話作家のコ・ムニョンのところで、絵本の挿絵を描くという仕事もすることになる。同じ病院に勤めていたナム・ジュリとその母が暮らす家に下宿していたサンテガンテ兄弟は、コ・ムニョン作家の邸宅で暮らしながら絆を深めることになる。事件も起こる。コ・ムニョン作家の失踪した行方不明の母親や、サンテガンテ兄弟が働く精神病院に入院しているコ・ムニョン作家の父親をめぐり、謎解きが展開していく。一方で、PTSDに苦しむベトナム帰還兵の老人をとっさに介抱したり、徐々に周りの人間を助ける経験を積んだりしながら人間的に成長していく。
最終的に、ある事件においてサンテが決定的な活躍をする。さらに、コ・ムニョン作家が無事に小説を出版したことで、自他ともに認める「作家」となったサンテは、自らのアイデンティティを確認する。「誰かに必要とされている自分」を確認したサンテは、今までのように弟ガンテを束縛する生き方を捨て、笑顔で弟と別れるのだった。
「ムン・ガンテはムン・ガンテのもの!」
劇中何度も登場する台詞であるが、サンテガンテ兄弟ともにこの境地に至る過程を描くのが、このドラマの全てであったと言えるだろう。
