この記事の内容
・ 韓国の4大銀行の一つである新韓銀行(Shinhan Bank)が、アプリの本人確認プロセスにブロックチェーンを導入することを発表した。生体認証技術と合わせることで、利用者の簡便性が大幅に向上する。
・ 新韓銀行はブロックチェーン発展のための有志団体である「マイIDアライアンス」にも加盟しており、今回の技術は同団体を運営するアイコンループ社(ICONLOOP)が開発したものである。
・ 新韓銀行のみならず、サムソン証券をはじめとした韓国の金融大手も同様に本格的にブロックチェーン技術の導入に踏み切るものとみられる。
新韓銀行がブロックチェーンを導入
韓国の4大銀行の一つである 新韓銀行(Shinhan Bank)は、8月26日に公式ホームページ上で、同行のアプリにおける本人確認プロセスにブロックチェーンを導入することを発表した。新韓銀行はブロックチェーン発展をめざす韓国の民間・政府などの有志団体から構成される「マイIDアライアンス」に加盟しており、ブロックチェーンを利用した認証システムの活用に積極的だ。
ブロックチェーンで本人確認を大幅に簡素化
今回発表された内容は、新韓銀行の顧客がスマートフォンなどで利用するアプリ「ソル(SOL)」による本人確認に関するもの。すでに顧客はソルを通じて入出金などの手続きが可能だが、新規口座の作成や振替上限金額の更新などの手続きについては、顧客が身分証明証と自分の顔が映るように「自撮り」をしたうえで少額の入金をする必要があるなど、煩雑な手続きが存在していた。
新韓銀行はブロックチェーン技術と生体認証技術を活用して、こうした手続きを大幅に簡素化した。韓国の金融取引で本人確認に使用される「公認認証書」を新韓銀行側が登録しておくプロセスを踏めば、顧客側はスマートフォン上で指紋認識を行うだけで本人確認が完了する。顧客の本人情報は偽造・変造が不可能であるブロックチェーン台帳上にあるため、確実かつ簡潔に確認が可能だ。
新韓銀行は今後こうしたブロックチェーンによる認証をモバイルOTP(ワンタイムパスワード)発行やパスワード変更といった業務にも拡大する予定だ。

分散身元確認技術(DID)を開発したアイコンループ社(ICONLOOP)
新韓銀行が導入を発表した技術は、分散身元確認(DID, Decentralized ID)技術と呼ばれる。スマートフォンで本人情報を暗号化して保存した後に、個人情報提出の必要があるときに本人が直接個人情報を選択して提出することを可能にする技術であり、韓国の大手ブロックチェーン技術企業であるアイコンループ社(ICONLOOP)が開発した。
同社は新韓銀行も参画する「マイIDアライアンス」の旗振り役でもあり、同アライアンスのプラットフォームを提供している。DIDの他にも独立系ブロックチェーンであるループチェーン(Loopchain)の開発や、非対面での訪問者の本人確認を事前に行うことが可能なVisitMeなどのサービス開発を手掛ける。
アイコンループ社は、韓国だけでなく世界のブロックチェーン・コミュニティで存在感を放つ開発者団体であるアイコン(ICON)とも関係が深い。
ブロックチェーンは、韓国の社会と経済に「意味のある変化」を起こしつつある
新韓銀行の発表によれば、ブロックチェーンを活用した簡便性ある金融手続きへの転換は今後も続く見込みだ。金融取引に必要とされた各種証明書を、発行機関の確認無しにモバイルで伝送するなど、銀行顧客の便利性が大幅に向上するという。また、新韓銀行のグループ企業である新韓カード、新韓金融投資なども該当サービスの2020年内の導入を検討中であり、サムスン証券、 未来アセット証券、ペイコなどのマイIDアライアンスに属する77個のパートナー社も順次参加する予定だという。
新韓銀行以外にも、運転免許証のブロックチェーン技術によるデジタル化が始まったり、ブロックチェーン技術を活用した決済アプリ「チャイ(CHAI)」の利用者が200万人を突破したりと、韓国社会ではブロックチェーン技術を活用したサービスが着実に浸透してきている。仮想通貨以外のサービス開発に苦戦していたブロックチェーン業界だが、今年に入ってからはこうした社会的に意味のあるサービスを、ブロックチェーン技術を活用して韓国社会に送り出してきている。コロナウイルス(COVID-19)による社会的距離置き(ソーシャル・ディスタンス)の一般化に伴い、「非対面」の本人認証の重要性が認識され出したのも追い風と言える。ブロックチェーンによる韓国社会と経済の変化から今後も目を離せない。
参考
参考1.新韓銀行について
新韓銀行(Shinhan Bank)は、1897年に設立された韓国の銀行。2019年の総資産は364兆ウォンを超え、韓国4大銀行の一つとされる。
出典:file:///C:/Users/user/Desktop/20200406041636_09100891_188_salesreport_2019.pdf
参考2.新韓銀行による報道資料について
以下の通り日本語試訳を掲載しておく。
(原文:https://www.shinhan.com/hpe/index.jsp#300501010000)
報道資料
タイトル:新韓銀行、ブロックチェーン基盤身元認証サービス導入
出処:広報部
作成日:2020年8月26日 10:51
デジタル業務処理身元確認プロセス簡素化
新韓銀行、ブロックチェーン基盤身元認証サービス導入
-分散身元確認技術を通じた身元確認プロセス簡素化で顧客便宜性増大
新韓銀行(銀行長 チン・オクトン)は新韓ソル(SOL)に金融委員会・現金金融サービスに指定されている「マイID」基盤の分散身元確認(DID, Decentralized ID)技術を導入すると26日明らかにした。
分散身元確認技術とは、スマートフォンで身元情報を暗号化して保存した後、個人情報提出の必要があるときに本人が直接個人情報を選択して提出することができるシステムであり、新韓ソル(SOL)にマイIDアライアンスの「ズン(MyID)」が提供する身元認証サービスを使用できるように導入した。
新韓銀行は身元認証サービスを通じて非対面2次身元確認プロセス(身分証撮影または通信会社を通じた本人認証)を代替して顧客の業務プロセスを簡素化しソル(SOL)を通じて身元確認プロセスを踏んだ顧客は証券、カード、生命保険等金融機関取引のみならず生活便宜プラットフォームでも身分確認過程を省略あるいは簡素化することができる。
新韓銀行が検証する身元情報を保存し、他金融機関に提出時に身元証を撮影し提出するなどの別途検証無しに指紋認証だけで何度も提出が可能であり身元情報の偽造変造の有無についてはブロックチェーンで検証する。
現在はログイン手段変更部分に使用可能でありモバイルOTP(ワンタイムパスワード)発行、パスワード変更、顧客確認(KYC)等の身元情報確認が追加に必要な他の金融取引にも拡大する予定だ。
新韓銀行デジタルR&Dセンターのチャン・ヒョンギ本部長は「分散身元確認は今後広まるであろうデジタルIDエコシステムのスタート地点になる見込みであり、個人の身元情報のみならずデータ管理及び取引が可能なプラットフォームへと発展するだろう」と述べた。
ズン(MyID)を運営しているアイコンループのキム・ジョンヒョプ代表は「新韓銀行とのこの度の実名認証発行は金融界で使用されるDIDサービスの韓国国内最初のケースであるという点で大きな意味がある」としつつ、「今後汎金融界を越えて身元認証が必要な全ての分野へと“ズン”サービスを拡大して、より多くの利用者の便宜性を高めていく」と述べた。
他方で、身元認証サービスに電子署名技術が追加で搭載されれば認証書の代わりに個人認証手段として使用可能となり金融取引に必要とされた各種証明書を発行機関の確認無しにモバイルで伝送することが可能であり顧客の便宜性を更に高めることができる展望である。
新韓カード、新韓金融投資などの新韓金融グループ系列社も該当サービスの年内導入を検討中であり、サムソン証券、未来アセット証券、ペイコなどのマイIDアライアンスに属する77個のパートナー社も順次参加する予定である。
参考3.マイIDアライアンス(MyID)について
ブロックチェーンを活用した金融サービス向上を目指す、金融業界などの有志企業からなる企業団体。
MyID 公式ホームページ:https://myidalliance.org/
参考4.アイコンループ社(ICONLOOP)について
韓国を代表するブロックチェーン企業の一つ。2016年創業。独自開発のブロックチェーンであるloopchainをはじめ、モバイル身分証明サービス「マイID(MyID)」や身元確認サービス「Dパス(DPASS)」、ブロックチェーン証明書発行サービス「ブルーフ(broof)」等を提供している。また、同社の開発に関わったICONは、韓国だけでなく世界的なブロックチェーンコミュニティの中で存在感を持つ開発者団体である。
アイコンループ社 公式ホームページ: https://www.iconloop.com/
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