
空売り(short selling/공매도)は、他人の持つ株(またはその他金融商品)を借りてきて、それを売るという行為である。ややこしいが、その意図するところは「何かの価格が下がる方に賭ける」というものである。空売りはイメージが良くない。それはそもそも他人の物を売るという行為が直観的に理解しがたいこともあるが、投資家というのはそもそも価格が上がることに賭けるのが投資だと思っているため、わざわざ価格を下げるような行為をする空売りというものに対して敵意をもつのも大きな理由だろう。
今日紹介する書籍はイ・グゥアンフィ『これが空売りだ』21世紀ブックス、2019年(韓国語書籍)である。タイトルが示す通り、この本は空売りという金融技法について総括的、学問的に広く深く述べている。先週の予告でも紹介した通り、著者のイ・グゥアンフィ教授は空売りに関する世界的な権威であり、現在韓国のソウル大学経済学部で教授職にある。
忙しい読者のために、本書のまとめとして著者が紹介している3つの提案と1つの提言から紹介したい。
・3つの提言
1.空売り関連をインフラ拡充すべき
2.個人投資家の空売り機会を拡充すべき
3.事前的な規制に力を入れすぎず、事後的に明らかになった反則への処罰を大幅に強化すべき
・1つの提案
空売り(공매도)という呼称を、借売り(차입매도)に変えてはどうか
著者は何故このように空売りを積極的に擁護するのか?それは、空売りには市場の「価格効率性」を実現する力があるからである。
著者が言及しているたとえ話の中で、印象的なものを紹介したい。中国で、毛沢東が「すずめ」を害鳥として駆除を命じたことがある。すずめは農作物を食い荒らすからである。ところが、すずめが駆除されてしまった結果、すずめを天敵としていた害虫が増えてしまい、結果的にすずめより多くの農作物の被害が生じたという。空売りも同じである、と著者は言う。空売りそのものにも弊害はあるが、空売りを禁止してしまうと市場は正しく機能しない。空売りがないと、「適正価格(公正価格)」が実現されないのである。
例えば、空売りを規制している国では、株価に否定的な影響を与えるであろう情報は、なかなか価格に反映されない。しかし、空売りが認められている国では、素早く価格に反映される。経済学において効率的であるというのは、情報がタイムラグ無しに共有されるという意味合いがあるので、空売りが情報共有の速度に貢献しているというのは、価格の効率性の一助になっているというのと同じである。(Bris, Goetzmann and Zhu, 2007)
また、香港の空売り市場の研究によれば、香港では空売りしていい会社リストというのがあり、それは定期的に更新されるという。空売りの対象となった会社の株価は、リスト登録後に実際に価格が下落するが、それは一時的な現象ではなく、下がったままである。これは、一時的に空売りによって価格が下がったのではなく、その会社の株価が本来あるべき水準に回帰したと考えられるべきという。(Chang, Cheng, Yu, 2007)
逆に、空売りが規制されると市場にどういう影響があるのだろうか?一言で言うと、空売り禁止は史上の流動性を低めてしまう。簡単なことで、空売りというのは「売り」の立場で市場に参加する権利を提供するので、空売りが禁止されればその分「売り」が減ってしまう。これが流動性を低めるということである。結果として市場効率性も阻害される。皮肉なことに、空売り規制というのは例えば相場が暴落する状況(恐慌など)で、価格下落を阻止するために金融当局が命じることが多いのだが、空売り規制をしても株価を支える助けにならないばかりか、意図とは逆に株価をさらに下げてしまう可能性さえあるのだ。(Beber and Pagano, 2013)
このように、空売りというのは効率的な市場を維持するためには欠かせないものである一方で、常に批判にさらされてきた。著者のイ・グゥアンフィ教授は、2020年に韓国金融当局が空売り規制をした際に、空売りの是非をめぐる研究を依頼されたと報道された。同様に依頼を受けた同じくソウル大学教授であるアン・ドンヒョン教授が空売り規制派であるのに対し、イ・グゥアンフィ教授は空売り擁護派として知られる。
韓国金融当局は2021年5月に空売りを再び解禁する方針だが、今後の動向が注目される。特に、2021年1月に米国個人投資家が機関投資家の空売りに対抗して米国ゲーム会社の株価を暴騰させた事件の後、空売りの是非に関する注目が韓国内でも再び高まっている。韓国では2020年に国内不動産保有に関する規制が強化された後、個人投資家が不動産から株に資金を振り返る傾向が強まり、サムスン電子などを含む国内株式保有率の個人投資家率が大幅に増えているためだ。空売りが韓国で解禁された場合、米国同様に「機関投資家による空売り」対「個人投資家による買い支え」のような株式市場の狂乱が再現されかねない。
このように激しく変化する株式市場における空売りの意味を正確に理解するためにも、イ・グゥアンフィ教授の『これが空売りだ』は必読書であると言えよう。
이관휘, “이것이 공매도다” 21세기북스, 2019년
イ・グゥアンフィ『これが空売りだ』21世紀ブックス、2019年(韓国語書籍)
目次
1部 空売りとは何でないか
空売りについてのよくある誤解
・空売り、その正体は何なのか
・ネーミングの失敗と誤解の始まり
・韓国及び米国における空売りの現状
・空売りをめぐる制度の変化
2部 空売りの悲哀
批判ばかりされがちな空売りのための弁論
・空売りに一石を投じるのは誰か
・「空売りが株価を下落させる」?
・「空売りが株価変動の元になる」?
・価格操作という刺激的な誘惑?
・未公開情報を利用する空売り?
3部 これが「本当の」空売りだ
予測と洞察で金融エコシステムを守る
・空売りの最大の長所:価格効率性
・市場における異常事態と空売り
・空売りは流動性を供給する
・空売りは嘘つきに噛みつくハンターである
・多様な投資とヘッジ戦略の手段
4部 空売りは絶対に必要である
グローバル株式市場に答えを求めて
・空売りと価格効率性に対するグローバル実証研究
・金融危機を悪化させた「空売り禁止」
・香港の空売り規制を通じて分かること
・グローバル市場での空売り規制の回避は可能か?
https://book.naver.com/bookdb/book_detail.nhn?bid=15373384
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