韓国のテレビ番組が日本の衰退の原因をこの上なく正確に捉えていた。

韓国のKBSというテレビ局が、日本の衰退の原因を、日本以上に正確に捉えていた。韓国語の番組ではあるが、どうしても日本の人に見てもらいたいと思い、日本語で内容を抜粋する。

韓国のKBS社が2021年8月15日に合わせて放映した特集『データで見る、日本の二つの顔』という番組において、コロナ禍での東京オリンピック開催で再び世界の注目を浴びた日本の現在、過去、未来について多角的かつ正確な分析がなされていた。韓国、日本、米国の識者の解説を通じて、かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とまで言われた日本経済がなぜ停滞に陥ってしまったのかを読み解いていくという番組である。

私はこの番組を見ながら改めて日本の将来に危機感を持った。同時に、隣国でありながら日本のことをこのレベルで深く分析し、心配してくれる韓国という国に有難さを覚えた。

本記事は敬称略である。日本からは 古賀茂明・前経済産業省官僚や 津田建二・国際技術ジャーナリスト、 牧野健一・旭川赤十字病院医師、 山泰幸・関西学院大学教授、パク・サンジュン・早稲田大学国際教養学部教授、 鈴木和樹・NPO法人POPOLO代表などが出演なさっている。

また、この番組の全編を韓国語でご覧になりたい方は、以下の公式YouTubeURLを参照されたい。全ての著作権は当然、製作社たるKBSにあり、この記事は権利についての主張は一切行わないことをここに明記する。

出典:韓国KBS『データで見る、日本の二つの顔』(2021年8月15日(日)午後9時40分よりKBSTVにて放映)

公式YouTube:https://www.youtube.com/watch?v=AcIly2vq0qM

目次

  1. 追い越しの時代、縮む日韓格差
  2. JAPAN as number One, 栄光の日々
  3. 日本衰退の原因を求めて
  4. 半分の成果:アベノミクス
  5. エピロ(日本の今後、韓国への教訓)

  1. 追い越しの時代、縮む日韓格差

東京池袋の丸井百貨店の閉店に象徴されるデパートの減少傾向はコロナだけでなく、富裕層さえも消費したがらない長期停滞を反映している。

・若い世代は低賃金の職場で働き、未来への展望は明るくない反面、好景気の中で安定した職場を持っていた人たちは過去10年で豊かになった。問題は経済的に余裕がある層ですら財布の紐を緩めたがらない、消費をしたがらないという消費者心理になってしまっている。(ホン・ジュヌク EARリサーチ代表)

・一人当たりGDPは韓国が日本を逆転した。

・購買力の基準として、「一人当たりGDP」がある。購買力というのは、1人当たりGDPでどれだけ多く変えるかを調整するものである。国同士比較したときに、同じ収入でも物価が安い国ではより多くのものを買うことが出来る。その分、一人当たりの暮らしの質は高いということが言える。(オ・コニョン 新韓銀行IPS企画部副部長)

・1ドルで買える財やサービスの良は韓国の方が多いということ。名目GDPはまだ日本のほうが韓国より上なので、例えば都市勤労者の名目給与水準を見ると日本のほうが韓国より上だが、その給与でどのくらい買うことが出来るかと考えると、韓国の勤労者のほうが多くのものを買うことが出来る。(イ・チャンミン韓国外国語大学融合日本地域学部教授)

・3年くらい前から、日本にひいき目にみても日本が韓国より上とは言えなくなった。だがそんなことを知っている日本人はほとんどいない。日本のメディアは偏っていて、臆病。韓国を褒めるということはすごくやりにくい。韓国の悪いニュースは安心して伝えられるが、韓国が立派ですとか韓国が進んでいますと報道すると、ネトウヨを中心にものすごく叩かれる。(古賀茂明 前経済産業省官僚)

・韓国が日本を追い越しているというのは、韓国の発展速度が速いのもあるが、日本の成長速度が落ちたということも考慮する必要がある。(オ・コニョン 新韓銀行IPS企画部副部長)

・60年代の日本は造船業など重化学工業を中心に発展した。東洋初の新幹線が走り出したのもこの頃だ。

・『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を著したエズラ・ヴォ―ゲル氏はある意味アメリカへの警鐘として書いた面がある。だが、日本でベストセラーになった際は、この本を自分たちのすばらしさを誇るための本として受け止めた。(タガート・マーフィー 『日本 呪縛の構図』の著者)

・バブル経済の時代には東京の不動産価格で米国全土の土地が買えると言われ、ロックフェラータワーは日本資本に購入された。1988年にピカソの限定版を史上最高額で落札したのも日本マネーだった。日本のGDPは米国GDPの8割近くまで迫った。

・しかし、90年代になりバブルが崩壊すると、不動産も物価もどんどん低下していった。デフレの期待が高まると、物価が下がっても消費者はモノを買わない、モノを買わないと企業は業績が上がらない、業績が上がらないので雇用がない、そういうスパイラルが始まっていった。(オ・コニョン 新韓銀行IPS企画部副部長)

・バブル期に作られた別荘の取材:前の主人の家具、食器まである状態で売りに出されている高級別荘が、「1円」で販売に出されている。バブルの時代には、一つの物件が一日に3回売買されるということすらあったという。しかし、バブル崩壊と共にそうした需要も消えた。

・銀座の高級着物店の取材:バブル時代には1か月分の売り上げを3日で売り上げる、高級な製品が売れていた時代だった。1000万円クラスの製品も飛ぶように売れていた。

2. JAPAN as number One, 栄光の日々

・ジャパン・アズ・ナンバーワンは製造業から揺らぎ始めた。

・日本経済はバブルを頂点に少しずつ衰退していった。当時は製造業が圧倒的に強かったが、今の日本では自動車、しかもトヨタ以外は世界一とは言えない。今後は半導体がカギと言われているが、韓国や台湾、一部アメリカの国が中心であり日本企業は国別で言えば4番手程度であり、しかも中国に追い上げられている。(古賀茂明 前経済産業省官僚)

・日本の製造業の栄光と衰退を浮き彫りにするのが、半導体だ。

・半導体の日本企業で世界一だったのは70年代にはトップ10に1社あるかどうかというくらいだったが、80年代には3~4社くらい入り始め、80年代半ばにはNEC、日立、東芝、三菱など、7~8社が入った。一番強かったのはDRAMというメモリだった。(津田建二 国際技術ジャーナリスト)

・韓国のサムスン電子が256メガのDRAMを出してきたときにも、日本企業は傲慢だった。安い人件費で作っただけだと馬鹿にしていた。しかし翌年、アメリカのマイクロンが同じように安く高性能のDRAMを出してきて、日本の業界人はしょぼくれてしまった。サムスンやTSMCが「ここだ!」という時期にバーンと投資したのに対して、日本は全く投資しなかった。サムスンやTSMCは底だからこそ投資したが、日本は底だから投資しても仕方ないと見送った。そういうことが何回かのサイクルで繰り返され、決定的な差がついてしまった。また、内製化も問題だった。東芝の半導体は東芝のテレビに、パナソニックの半導体はパナソニックのテレビにしか使われず、テレビなどの最終製品が売れなくなると半導体も作られなくなってしまった。(津田建二 国際技術ジャーナリスト)

・今の日本は素材、装置の分野ではとても強い。TSMCが日本で工場を新設し増設すれば日本国内で需要が増える。そうすることで日本が競争力を保っている分野を保護しようとしているという面がある。(パク・サンジュン 早稲田大学国際教養学部教授)

3. 日本衰退の原因を求めて

国家競争力評価(2021年):韓国23位、日本31位

出処:スイス国際経営開発学院(IMD: International Institute for Management Development)

・日本の国際競争力は89年から92年頃には世界1・2位を争っていたが、その後は下落傾向。専門家は常に警告をしていたが、一般国民には実感が湧かないまま認識をしないままここまで来た(イ・チャンミン韓国外国語大学融合日本地域学部教授)

日本の競争力低下の象徴としてのファックス

・日本政府での河野太郎によるファックスからメールへの切り替えを奨励したが、結局とん挫。

・ファックスはほとんどの人は使わないが、企業や行政では古い仕組みのところではいまだに使われている。河野さんもそれほどひどい状況だと知らなかったのでは。(古賀茂明 前経済産業省官僚)

・コロナワクチン接種について、65歳以上のお年寄り対象なので、インターネットが使えないため予約がなかなか進まず、電話は回線が限られていてやはり予約が進まない。接種券を郵送するという仕組みもアナログであるため、手続き的な障害がある。(牧野健一 旭川赤十字病院医師)

2021年経済成長率展望(IMF2021年7月による)

米国 7.0%・英国 7.0%・カナダ 6.3%・フランス 5.8%・韓国 4.3%・ドイツ 3.6%

日本 2.8%

・リーマンショック(2008年前後)以降の経済成長の回復率も、日本は他の先進国よりも低かった。他の諸国は成長率が2%程度だったが、日本は1%程度。構造的な問題がある。IT化の遅れ、デジタル化の失敗による低い生産性が原因。(イ・チャンミン韓国外国語大学融合日本地域学部教授)

・ボクサーの比喩:ボクサーがジャブを喰らった場合、立っていられるか?という問いを立ててみる。もしも1ラウンド目で、元気いっぱいの状態なら何の問題も無いが、最終ラウンドで立っているのもやっとの状態でジャブを喰らったのであれば、倒れてしまう可能性がある。日本経済は30年の困難の果てに今回のコロナ危機に直面してしまったため、他の国に比べて相対的に衝撃が大きい危険がある。(オ・コニョン 新韓銀行IPS企画部副部長)

4. 半分の成果:アベノミクス

(アベノミクス成績表)

  • 物価上昇率:目標=2%, 結果=0.89%
  • 名目経済成長率:目標=3%, 結果=1.61%
  • 実質経済成長率:目標=2%, 結果=0.85%

・失われた30年の間に日本も何もしなかったのではなく、特筆すべきはアベノミクスという試みがあった。

・アベノミクスとは、円を潤沢に供給すること。物価成長率が2%に至るまで、量的緩和を続けるというものだが、金融市場にとっては円が市場に流入するという期待を抱かせることになった。(オ・コニョン 新韓銀行IPS企画部副部長)

・三本の矢(量的緩和、財政政策、構造改革)を掲げたが、莫大な金をバラまいた結果、円の価値が低下し始めた。株価は暴騰し、輸出も回復傾向を示した。2012年12年から2018年10月まで、何と72か月の間経済は成長した。

・アベノミクスの本質は量的緩和。長期成長の戦略も掲げられていたが、ほとんど成果は無かった。(パク・サンジュン 早稲田大学国際教養学部教授)

・円安、輸出増で恩恵を受けたのは企業。営業利益は改善したが、海外投資やM&Aに邁進したが、賃金上昇にはつながらず、国民にとっては好景気の恩恵を感じられない結果となった。(イ・チャンミン韓国外国語大学融合日本地域学部教授)

・契約職・インターンで雇用しておき、正規職になる頃に解雇してしまうというやり方が慢性化した企業が多い。雇用の質や所得水準は向上しなかった。日経平均が3万円を突破するなど、アベノミクスが撒いたカネは、資産市場にのみ入り、配当という形で株主の利益になった。アベノミクスは株式市場的には成功だが、景気回復を体感していない国民の方が多いと聞いている。(ホン・ジュヌク EARリサーチ代表)

・アベノミクスが一定の経済的成果を上げたという評価は日本国内でもあると思うが、コロナ禍での問題のように、成長を支える見えない社会的弱者が多数存在するにも関わらず彼らを犠牲にしてきたという面がある。数字とそれを支える人たちの幸福が必ずしも一致していないというのが大きな問題。(山泰幸 関西学院大学教授の話)

車内泊をする人たちに声をかける生活支援NPOの取材

・最初は問題ないと答える人が多い。尊厳もあるため。また、本人も自己責任であると考えている人が多い。コロナ禍で工場停止等が広がり、雇い止めなどが増えた結果車内泊生活をすることになった人が増えた。しかし、実際はコロナの前から非正規雇用が広まり、解雇されやすい状態が出来ていた。(鈴木和樹 NPO法人POPOLO代表の話)

・正規雇用だったが首を切られ、非正規雇用を始めたところ収入は半減した。以前は一軒家も持っていたが、車内泊するまでになった。「ああ、ここまで落ちちゃったかって正直思いましたね…。落ちたっていう言い方が適切かどうかわかりませんけども。ここまで来ちゃったかっていう感じです。」数えてみたら車内泊生活は270日目になった。(車内泊を続ける人の話)

・アベノミクスの総括:経済の成長力、競争力をもう一回引き上げることと同時に、富が一部の人に遍在する構造を変え、より裾野が広い中間層を生み出し、それによって需要が増えるという構造にすることが必要。(古賀茂明 前経済産業省官僚の話)

5. エピローグ(日本の今後、韓国への教訓)

・韓国にとって日本は二面性がある存在だった。越えられないライバル日本という顔と、反省を知らない近くて遠い国日本という顔である。

・50代、60代の韓国人にとって日本は、経済等で劣等感をもつ一方、道徳的には慰安婦問題などで優越感を持つという、相反した感情の対象だった。しかし、若い世代になるほど特に劣等感も優越感も無い。(イ・チャンミン韓国外国語大学融合日本地域学部教授)

・日本が韓国などの競争相手に後れを取ったことは確かである。しかし、日本にはまだ素材や部品など、一部の分野で競争力を持つ。日本の失敗を誇張するべきではない。(タガート・マーフィー 『日本 呪縛の構図』の著者)

・日本企業は生き残ると考えている。日本経済も同様である。しかし、この国は成長もせず消滅もせず、現在のようなまま今後30年、40年続いていくと予想している。(パク・サンジュン 早稲田大学国際教養学部教授の話)

・高度経済期モデルというのを結局変えられていない。みんなで一緒に経済成長のために全てを犠牲にしていこうというモデル。しかし、原発事故やコロナ禍のように、経験したことのない事象にぶつかるとゼロから考えて、新しい発想で提案する人が必要となってくる。(古賀茂明 前経済産業省官僚の話)

・韓国は日本が陥った罠を避けられるだろうか?韓国はまだインフレ心理が生きており、輸出中心の経済であるため、韓国と日本を直接比較することは難しい。しかし、経済主体の心理が際限ない悪循環に陥ってしまえば日本のような巨大国家さえも抜け出すことは難しいのを見ると、韓国も未来に対する漠然とした不安感をどう解決していくか、特に国民年金をはじめとした老後の福祉問題などの財源の準備などについてどうするのか、韓国も事前に対策すべきだ。(ホン・ジュヌク EARリサーチ代表)

・日本ではとても長い間停滞したことによる経済主体たちの自信が弱体してしまった。韓国ではまだそこまでではない。韓国も経済主体の自身が無くならないよう、生産性を上げることが出来るように、果敢に投資をしていかなければならない。(オ・コニョン 新韓銀行IPS企画部副部長)

Published by Atsushi

I am a Japanese blogger in Korea. I write about my life with my Korean wife and random thoughts on business, motivation, entertainment, and so on.

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