빈센조(Vincenzo/ヴィンチェンツォ。以下、빈센조で統一)を全話観た。面白かった。 ストーリーとしてはよく言って荒唐無稽な設定である。幼少期に韓国からイタリアに養子に出された韓国人男性が、長じてイタリアマフィアの大物になり、あることがきっかけで祖国である韓国に戻り、成り行き上韓国のバベル・グループという架空の財閥との対決に巻き込まれながら、持ち前のマフィアスタイルで巨悪を葬り去っていくという話である。どこから突っ込んでいいか分からない。 もちろん、真面目な内容も多く含まれている。最も真面目なのは、検察の腐敗と、非理の被害者たちの細やかな描写である。前者はムンジェイン大統領と韓国の民主化勢力が政治生命を賭けて取り組んでいる内容であり、後者はセウォル号への追悼である。 検察の腐敗で言えば、腐った部分と腐ってない部分を備えたリンゴは、腐っていないと呼べるのかどうかという哲学的な問いかけを通して、検察改革の正当性を強烈にアピールしている。 セウォル号事件へのオマージュでいえば、犯罪被害者たちが「もう飽きた、いい加減にしろ」と匿名掲示板にて暴言を吐かれたりする描写や、関連シーンに搭乗する車のナンバーが0416(2014年4月16日がセウォル号事件)だったりするなど、完全に追悼メッセージとなっている。 そして、主人公たる빈센조は、そうした腐敗検察と手を組んだ財閥による被害者たちの側に立って、悪党には悪党の手段を以て対峙していく。「ゴミを片付けるゴミ」を自称しながら。設定は荒唐無稽ながら、その荒唐無稽さがいい。快刀乱麻といった感じで、執拗な財閥・検察の攻撃に反撃していく。毎話胸のすく展開が待っている。 しかしながら全体として暗い印象が否めないのは、やはりマフィアスタイルのもつ陰湿性、残虐性のせいだと思う。最終話に向けて、暴力はどんどんエスカレートしていく。血で血を洗う抗争も待っている。その暗さを救うのが、빈센조を演じるソンジュンギの甘いマスクと、壮大なOSTである。特に、OSTの素晴らしさは筆舌に尽くしがたい。毎回ストーリーの最後に流れ、次回作への期待を高める『Un diavolo scaccia l’altro』、暗さと力強さを感じさせる『Mafia』、狡猾な財閥の攻撃に奇策で反撃するシーンを盛り上げる『For The Justice』、巨大な何かと対峙する悲壮感を感じさせる『Stopped Time』など、名曲ぞろいとなっている。 最後に、ソンジュンギ演じる빈센조の名言を紹介して終わりとしたい。 “반복된 망언은 실수가 아니라 태도예요. “(빈센조) 「繰り返される妄言は、ミスではなく態度です。」 日本でも多くみられる、歴史修正主義者たちの妄言やそれを垂れ流す一部メディアを考える時、非常に示唆に富んでいる。 #빈센조 #Vincenzo #ヴィンチェンツォ #ソンジュンギ #韓国ドラマ #検察改革 #積弊精算 #民主化 #セウォル号