はじめに
はじめまして。私は歩合制の営業マンをしています。成果が数字に直結する世界で、成績を上げれば上げるほど報酬が増える……それは大きな魅力です。しかし一方で、同じチームの後輩に実績で負けると、「先輩の自分なのに、悔しい」「プライドが傷つく」といった感情に苛まれてしまうことがありました。さらに、周りの営業マンが稼ぐと、まるで自分が損をしたかのようにつらい気持ちになる。実際には別物なのに、「他人の成功」が「自分の失敗」「自分の取り分が減った」と感じてしまうのです。
そんな気持ちを抱えるうちに、「これはどういう心理メカニズムなんだろう?」「嫉妬を和らげる方法はないのだろうか?」と気になり、いろいろな文献を調べました。さらに私は、社会主義や共産主義など“大きな思想”にも興味があり、「個人の利益を超えた価値や目的」について考えるきっかけが多々あったのです。
そこで出会ったキーワードが、偉大な何かと犠牲でした。本記事では、私自身がたどり着いた“他人の成功を自分の損と感じないための考え方と具体策”をまとめたうえで、最後に「じゃあ自分にとっての“偉大な何か”とは?」「何をどう“犠牲”にすればいいの?」という点を掘り下げてみます。
なぜ他人の成功が「自分の損」に思えてしまうのか
1. 社会的比較理論
フェスティンガーの社会的比較理論によると、人は自分の状態を他人と比べて評価します。特に近い存在――たとえば同じ会社の後輩――が良い成果を出すと、それを「自分が上回れなかった」と捉えてしまい、強い劣等感や嫉妬が生まれやすいのです。
2. カウンターファクチュアル思考(“もしも”の思考)
「あのとき別の行動をしていれば、自分がその成果を得られたかもしれない」と考えてしまうことで、現実との差が余計に際立ちます。営業で失注した際、「もう少し粘れば成約できたかも」と夜中にくよくよ考えてしまうことはありませんか? 私もその繰り返しでした。
3. 損失回避バイアス
行動経済学の研究によれば、人は「損失」の痛みを「得」の喜びより強く感じます。つまり、他人の成功を「自分が取りそこねた報酬」と認知すると、実際には損をしていなくても「損失」のダメージだけ感じやすいのです。
解決の鍵1:「偉大な何か」を見据える
“偉大な何か”とは?
自分の小さなエゴや目先の損得を超えた大きな目的・理念のことを指します。具体的には「社会貢献」「チーム全体の底上げ」「業界を盛り上げる」「顧客の課題を徹底的に解決する」など、人によって様々です。
1. 自分を超える目的や意義をもつ
• フランクルのロゴセラピーなどでは、「人は自分より大きな何かのために行動するとき、苦しみや困難を乗り越える力を得る」と説かれています。
• 私の場合、営業成績のみならず、「お客様の悩みを解決し、社会全体の質を高めたい」「後輩を育成して、会社の総合力を上げたい」と考えるようにしたら、後輩の成功が“自分が失うもの”ではなく“学びのチャンス”と見えはじめました。
2. チームの成功を“自分の成功”と捉える
• **社会的アイデンティティ理論(Tajfel & Turner)**によると、所属している集団を自分ごととして捉えるほど、仲間の成功をポジティブに感じられます。
• 「同じ部署で後輩が結果を出す=部署全体の評価が上がる=将来的に自分にも波及する可能性が高い」と思うと、嫉妬よりも「今度一緒に成功事例を共有しよう」「さらに全体を伸ばせるかも」という前向きな気持ちになれます。
3. 成長マインドセットで“学び”を優先
• ドゥエック(Dweck)の成長マインドセットでは、能力は固定されたものではなく、努力次第で伸ばせるという前提を重視します。
• 他人に負けると「才能がない」と思いがちですが、成長マインドセットを持てば「後輩に負けた→自分にも伸びしろがある!」と考え、嫉妬がチャレンジ精神に変わっていくのです。
解決の鍵2:「犠牲」を受け入れる
“犠牲”とは?
ここで言う「犠牲」とは、“自分だけ得をしたい”という短期的・利己的なエゴを手放すことを意味します。営業で言えば、「トップの座を独占する」「ノウハウを隠して自分だけ儲ける」という考えを一部捨てることです。
1. 自己中心的プライドを少し手放す
• 自己評価維持理論によれば、他人の成功を脅威と感じるのは、強いエゴがあるからと言われます。私も「先輩として負けたくない」という意識が強いほど、後輩の活躍がつらかった。
• しかし、そのプライドを少し“犠牲”にして、「みんなで成果を出せたらいい」「後輩が活躍するのは自分の手柄でもある」と考え直すと、不思議とストレスや嫉妬が和らいでいきました。
2. 短期利益を諦めると、長期的にリターンが生まれる
• 囚人のジレンマや公共財ゲームの研究でも、短期的な独り占めより、協力体制を築くほうが最終的に大きな成果を得ることが多いと示唆されています。
• 「自分だけの営業テクや顧客情報を隠しておきたい」という気持ちを“犠牲”にして、チームで共有すると、一見損をするように感じても、長い目で見れば「助け合い・信頼」を得られ、自分にもプラスに返ってくる可能性が高くなるのです。
3. 自分を大切にしながらの“犠牲”
• 「犠牲」と聞くと、自分を痛めつけるようなイメージがありますが、ここでのポイントは**“自分の価値観を踏まえて、譲ってもいい部分は譲る”**というスタンスです。
• 私の場合、「数字で常に後輩を圧倒したい」というプライドを犠牲にする代わりに、「顧客と誠実に向き合う」「営業チームの連携を強化する」という点にはこだわり続けました。その結果、別の指標で自己評価を高められ、より大きな充実感を得ることができるようになりました。
「偉大な何か」×「犠牲」で嫉妬を超える
1. 嫉妬が向上心・協力体制に変わる
“偉大な目的”を持つと、他人の成功を「仲間の成長」「自分の学ぶ材料」と捉え、エネルギーを建設的に使えます。
さらに、短期的エゴを“犠牲”にすると、周囲と協力し合う姿勢が自然と生まれ、チーム全体が底上げされる好循環に繋がります。
2. 心がラクになる
「後輩に負けるのが怖い」「自分だけ損をしたくない」というストレスから解放されると、不必要な嫉妬や自己嫌悪が激減。気持ちに余裕が生まれます。
3. 長期的成果や信頼を獲得
ノウハウや情報を共有したり、後輩の成功を支援することで、チームや顧客からの信頼が高まり、巡り巡って自分の評価や業績も伸びる可能性が高くなります。
実践ステップまとめ
1. “偉大な何か”を言語化する
• 例:「お客様の課題を解決し、業界全体を盛り上げる」「後輩を育てて、会社の営業力を最大化する」など、自分の小さなエゴを超えるようなビジョンを紙やスマホに書き出す。
2. 譲れるプライド・譲れない価値観を仕分ける
• 「負けたくない」というプライドのどの部分は捨ててもいいのか?
• 絶対に大切にしたい価値観は何か?(例:顧客への誠実さ)
3. 他人の成功をリサーチ&共有
• 思い切って「どうやってそんなに成果を出しているの?」と聞いて、ヒントをもらう。
• 自分が得たノウハウもチームに還元し、良い事例を共有する仕組みを作る。
4. 協力を促進する行動を起こす
• チームで勉強会を開く、後輩のフォローに時間を割くなど、短期的には自分の成績に直結しなくても“長期的な繁栄”を見据えた動きを実践する。
+さらに深める:僕のプロフィールから考える“偉大な何か”と“犠牲”
ここからは、私(歩合制営業マン・社会主義や共産主義に興味を持つ・後輩に負けるとプライドが傷つく)がブレインストーミングしたアイデアです。もし同じような悩みをお持ちの方がいたら、ぜひ参考にしてみてください。
1. 僕に合う“偉大な何か”の候補
1. チーム全体で底上げする仕組みを作る
• 「後輩が結果を出せば、それは自分の功績でもある」と思えるように、営業のマニュアルやスクリプトを全員で共有し、誰でも成果を上げられる仕組みを整える。
• “個人の競争”から“全員が上がる”発想への転換は、社会主義的な「みんなで豊かになる」感覚と親和性がある。
2. 地方や小規模事業者への支援を通じて社会を良くする
• 「歩合制だから大手企業ばかりを追う」のではなく、利益率が低めでも困っている中小企業や地域のビジネスを支えることで、社会格差の是正に貢献する。
• 長期的に「あなたがいたから生き残れた」という企業が増え、結果的に自分も信頼と成果を得られる。
3. 営業=人を幸せにするソリューション提供
• 「売上アップだけが目的ではない。顧客の人生・事業をより良くするために営業力を発揮する」という定義づけをする。
• 社会主義や共産主義的な“皆が一定以上の幸せを得られる仕組み”に興味があるなら、その精神を活かし、営業でお客様や業界の抱える根本課題を解決する存在を目指す。
2. 僕が払うべき“犠牲”の候補
1. 短期的なNo.1営業への執着を捨てる
• 「先輩として後輩に負けるのが嫌だ」というプライドを少し手放し、長期的に大きな成果を上げるリーダーを目指す。
• ランキング1位にこだわらなくても「後輩・同僚全員が成果を出せる仕組み」をつくり、その仕組みの“設計者”として評価される道がある。
2. 独占ノウハウの開放
• 自分だけが得したい気持ちを“犠牲”にして、成功の秘訣や顧客情報、営業トーク術などを積極的に公開する。
• 一見損に思えても、周囲からの信頼・尊敬が得やすくなり、長期的には「この人と一緒に働きたい」「この人から商品を買いたい」という声が増える可能性がある。
3. 利益にならない活動にあえて時間を使う
• たとえば後輩の相談に乗る、顧客向けの無料セミナーを企画する、地域のボランティアに参加する……“直接の売上”に繋がらないかもしれない活動を“犠牲”を払って行う。
• その結果、いつか信頼や人脈という形で大きなリターンを得たり、社会や業界の発展に貢献する実感が得られる。
おわりに
「周りの成功を見て、まるで自分の損のようにつらくなってしまう」という感情は、誰にでも起こり得る自然な心理現象です。私もその渦中にいて、後輩に負けてプライドが傷つき、他人が稼ぐほど自分の取り分が減るように感じていました。しかし、**“偉大な何か”**を見据え、短期的エゴを“犠牲”にすることで、意外なほど心が解放されていったのです。
• **「偉大な何か」**= 自分の利益・エゴを超えた大きな目的(チーム全体、社会・業界、顧客のためになるビジョンなど)
• **「犠牲」**= 目先のエゴ・独占欲や絶対的プライドをある程度手放し、協力や長期的視点にシフトする
この2つを実践すると、他人の成功に嫉妬する代わりに、むしろ自分の成長やチーム全体の発展に繋げられるようになります。僕自身、最初は「それって損じゃない?」と不安でしたが、長期的に見ると信頼や評価が高まり、自分の成果や満足度も上がる――そんな体験をしました。
もしも同じように、他人の成功が辛くて仕方ないと思っている方がいたら、ぜひ一度「偉大な何かは何だろう?」「何を犠牲にできるだろう?」と自問してみてください。あなたの特性や価値観にあったビジョンや犠牲を設定できれば、今まで感じていた嫉妬が嘘のように力強い“向上心”や“協力”に変わっていくはずです。焦らず、少しずつ。あなたなりの道を見つけてみてください。