1. 盧武鉉大統領の政治的背景と民主化運動との関係性
盧武鉉(ノ・ムヒョン)は人権派弁護士出身であり、1980年代の軍事独裁政権下で民主化運動に深く関与しました。彼は釜山地域での代表的な冤罪事件「부림사건(釜林事件)」の弁護を1981年に担当し、この頃から権威主義体制への抵抗に身を投じ始めます 。1985年には釜山民主市民協議会(부민협)の結成に参加し、1986年頃から弁護士業をほぼ中断して民主化運動に専念しました。特に1987年6月民主抗争(6月抗争)では、全国的な民主憲法争取国民運動本部(国本)の釜山本部で常任執行委員長を務め、釜山における民主化デモの先頭に立ち「호헌철폐! 독재타도!(護憲撤廃!独裁打倒!)」といったスローガンを叫びながら行進する姿が記録されています 。このように**「釜山民主化闘争の野戦司令官」**とも称される活躍を通じ、盧武鉉は民主化運動家として名を馳せました 。
大統領在任中(2003–2008)の盧武鉉は、市民社会との協働と民主主義の深化を掲げ、「参与政府(パートナーシップ政府)」を標榜しました。彼は権威主義的な政治文化を打破し、国民参加型の政治を目指しており、「민주화 이후 남아있던 권위주의 제도와 문화를 청산한 것」こそが参加政府の最大の業績だと評価されています 。実際、盧政権は検察・国家情報院・警察・国税庁など権力機関の政治的中立化を図り、長年続いた「3金政治」に代表される腐敗・縁故主義の清算に努めました 。また盧武鉉は、市民社会を民主政治の重要なパートナーと位置付け、「80年代以降、市民社会は国政を導く主体となった。それにふさわしく代案を出す活動をしなければならない」と5・18記念式典で述べ、成熟した市民社会が建設的提案を行い合意形成に寄与するよう期待しました (「80年代以降、市民社会は国政を導く主体となった。それに見合った代案を提示する活動をすべきだ」という趣旨)。盧武鉉自身、民主化運動から得た理念を「참여民主주의(参与民主主義)」として継承しようと努めており、退任直前のインタビューでは「6월항쟁은 내 존재의 근거」(「6月抗争は私の存在の根拠だ」)とまで語っています 。この発言は、1987年の民主化運動である6月抗争こそが自らの政治的原点であり正統性の源泉だという強い認識を示すものです。
2. イ・ジュンソク氏の主要な政治的言動とその社会的影響
李俊錫(イ・ジュンソク)は、2010年代から台頭した若手保守政治家であり、斬新なメディア戦略と言動で注目を集めてきました。彼の主張の中でも特に物議を醸したのが、女性家族部の廃止提案と各種クオータ制(割当制度)への反対です。李氏は「女性や青年に対する優遇措置はかえって不公平を生む」と主張し、2021年の保守野党党代表選挙討論でも「기존 ‘파이’를 여성과 남성이 나누는 할당제는 불공정을 야기할 수 있다(既存のパイを男女で分け合うような割当制は重大な不公正を招きうる)」として公然と女性割当制廃止を訴えました 。彼は「女性の社会参加は増やすべきだが、それは労働環境の改善によって達成すべきであり、既存のパイの取り合いになるクオータ制とは区別すべきだ」と強調しています 。このような主張は一部若年層男性の共感を呼ぶ一方、女性層や進歩派から「逆行的」であると強い批判を受けました。
李俊錫の**「20代男性(いわゆる‘イデナム’)へのアピール戦略」は韓国社会に大きな波紋を広げました。2021年ソウル市長補選で20代男性の72.5%という圧倒的支持が保守候補に集まると、当時選対幹部だった李氏はSNSに「20대 남자. 자네들은 말이지…(20代男性、君たちは…)」と投稿して若年男性を勝利の立役者として称賛しました 。これ以降、政治圏では彼の「성별 갈라치기」**(ジェンダーで世論を割る)戦術が大きな論争となります。彼が主導した「女性家族部廃止」「逆差別是正」といったアジェンダは、一方で20代男性からの支持を集め保守票の底上げに寄与したとの評価もありますが、他方で20代女性を中心に強い反発を招き「逆風」となったとの分析もあります 。実際、2022年大統領選の出口調査では20代男性の約59%が尹錫悦(ユン・ソギョル)保守候補に投票した一方、20代女性の支持はそれよりはるかに低く、男女間の投票行動の断層が顕著でした 。李氏の戦術は熱狂と怒りを同時に引き起こし、韓国社会の性別・世代間対立を浮き彫りにしたと言えます。
李俊錫のSNS発信の特徴もその政治手法の重要な一面です。彼はフェイスブックやユーチューブを駆使して迅速かつ挑発的なメッセージを発信し、既存メディアに頼らず直接支持者と対話・論戦するスタイルを取りました。党内紛争時には深夜にSNSで皮肉交じりのコメントや流行のアニメ主題歌を投稿して含意を示すなど、“키보드 배틀(キーボード戦闘)”に長けた政治家として知られます 。しかしその奔放な発信ゆえに物議を醸すことも多く、特に女性や弱者に関する発言では度々「女性蔑視」批判を浴びました。例えば李氏はインタビュー等で「‘夜道を女性が歩きたくない’というのは被害妄想に近い」とか「2030女性が自分たちが差別されているという根拠のない被害意識を持つようになっている」などと発言しており 、「現実のジェンダー不平等を直視していない」「女性の声を嘲弄している」として進歩派メディアや活動家から強く非難されています(※李氏の発言原文: “(밤에 길거리를) 걷기 싫어하는 이유가 ‘여성이 안전하지 않은 보행 환경에서 비롯됐다’고 말한 것은 망상에 가까운 피해의식”, “2030 여성들이 소설과 영화 등을 통해 본인들이 차별받고 있다는 근거 없는 피해의식을 가지게 된 점도 분명히 있다” )。
李俊錫は保守政党・国民の力の歴代最年少党代表となりましたが、古参保守層との関係は終始緊張を孕みました。党内では彼の急進的とも言える改革志向やスタンドプレーに反発も強く、2022年には内部紛争の末に党倫理委員会から懲戒処分を受け党代表職を追われます。こうした経緯もあり、一部の保守政治家からは李氏の手法を「분열의 리더십(分裂のリーダーシップ)」と批判する声も上がりました。党内競争相手だった羅卿瑗(ナ・ギョンウォン)氏は李氏について「끊임없이 여성과 남성을 가르고 세대를 나눈다(絶えず男女を分け、世代を分断している)」と述べ、彼のスタイルを米国トランプ流のポピュリズムになぞらえて**「트럼피즘」**だと酷評しています 。このように李俊錫の言動は、韓国社会の一部に新風を吹き込む一方で、強い反発と論争を巻き起こし続けているのが実情です。
3. 日経新聞・峯岸博氏の韓国政治関連論説の傾向
日本経済新聞の峯岸博論説委員は韓国政治、とりわけ進歩系勢力に対して批判的な論調で知られています。峯岸氏は長年ソウル特派員・編集委員として韓国の政治外交を分析しており、近年では著書『日韓の決断』(2023年)を通じて尹錫悦政権を誕生させた韓国社会の変化について論じています。その論説の傾向を見ると、共に民主党を中心とする韓国左派勢力に対しては、その歴史的背景やイデオロギーに着目した批評を行うケースが多く見られます。一例として峯岸氏は文在寅(ムン・ジェイン)前大統領の政権について「北朝鮮優先の文政権が受け継ぐ『NL系』学生運動の系譜」と題したコラムを執筆し 、文政権与党の中核が1980年代の민족解放(NL)系学生運動出身者で占められていると指摘しました。彼は「문政권을支える秘書室と大統領首席室メンバーのうち65%がNL」との分析を引用し、NL派学生運動が指導者への無条件服従を特徴とした点に言及した上で「현재 청와대で文大統領を囲む参謀たちの関係도似ている(現在の青瓦台で文大統領を取り巻く参謀たちの関係もそれに似ている)」との保守系学者の見解を紹介しています 。さらにNL系運動家について「金日成・金正日に心酔した者もおり、保守陣営から『主体思想派』と批判された」とし、文政権の中枢に対北朝鮮融和的・反米民族主義的傾向が色濃いことを暗に示唆しました 。このように峯岸氏の論調は、韓国進歩派を**「学生運動時代から変わっていない」**イデオロギー集団として描き、その政策(対北・対日姿勢など)も理念偏重であると論じる傾向が見られます。
一方、韓国の保守政治家に対する峯岸氏の記述は、進歩派に比べて相対的に肯定的もしくは政策面に焦点を当てたものが多いようです。例えば尹錫悦大統領については、峯岸氏はその対日外交の転換を高く評価しており、著書でも「2022年5月に就任した尹錫悦氏は文前政権の対日政策を刷新し、『国交樹立以降で最悪の状態』を改善するため大きく舵を切った」と述べています 。尹大統領が歴史問題で「日本は既に数十回にわたり反省と謝罪を表明している」と明言し、過去志向の日韓関係を変えようとしたことについて、「従来の韓国政権とは大きく異なる決断」として高く評価しています 。また徴用工問題での解決策提示に尹政権が踏み込んだ際には、「『反日の政治利用』に韓国大統領自ら言及したことに日本人は驚いた」とし、尹氏の決断力と従来路線からの決別を称賛しています 。こうした記述からは、峯岸氏が保守勢力の現実路線や日韓関係改善の動きには肯定的な評価を与え、進歩勢力の民族主義的・急進的な側面には批判的な姿勢を取っていることが読み取れます。ただし峯岸氏は韓国右派の過激な動きにも全く触れないわけではなく、例えばソウル都心での保守・左派団体の衝突について「過激派団体が中心」 と述べるなど、韓国政治全体における過激化現象にも言及しています。しかし総じて、日経新聞紙面における峯岸博氏の論説は韓国左派への警戒感を強調し、保守政権の政策転換には理解を示すバランスで書かれているといえるでしょう。
4. 韓国の民主化の蓄積 vs 近年のポピュリズム潮流
1987年の民主化以降、韓国は民主主義の制度化と定着に大きな成果を上げてきました。市民による直接選挙で政権交代が常態化し、言論・集会の自由拡大や地方自治の復活(1995年地方選挙実施)を通じて、政治体制は着実に民主化されてきました。2000年代には過去の権威主義体制下の人権侵害を清算する真相究明や歴史和解の取り組みも行われ、腐敗防止や司法の独立性強化など民主的統治の基盤が整備されました 。特に盧武鉉政権期には、民主化以降も残存していた開発独裁時代の「권위주의(権威主義)的な制度・文化」の一掃が図られ、国家権力機関を私的に利用する慣行に歯止めをかけたことが評価されています 。また市民社会も量的・質的に成長し、2000年代以降はキャンドルデモに象徴されるような草の根民主主義の力が国政に影響を与える場面も増えました。2016年の朴槿恵大統領弾劾を求める촛불집회(ろうそく集会)は、その頂点とも言える出来事で、市民の力で平和的に政権を交代させ民主主義を守ったとして世界的にも称賛されました 。このような民主化の蓄積により、韓国は形式的な民主制から実質的な市民参加民主主義へと前進したのです。
しかし近年、その民主主義の成熟と併走する形で新たなポピュリズム的・反動的潮流も台頭しています。まず顕著なのが若年男性層を中心としたアンチフェミニズム(反女性主義)の流行です。2010年代後半からインターネット発の男性優位論やフェミニズム批判が拡散し、SNSやオンラインコミュニティで「逆差別」に対する怒りを訴える声が大きくなりました。これは経済停滞下で競争が激化する中、「女性優遇政策(女性割当や女性家族部の存在など)が自分たちの機会を奪っている」と感じる一部男性の不満を背景としています 。保守政治家の李俊錫や尹錫悦はこの不満に着目し、「女性家族部の廃止」や「男女平等兵役の検討」などを掲げて20代男性の支持獲得を狙いました 。尹錫悦大統領は選挙戦で「女性家族部 폐지(女性家族部廃止)」とSNSに投稿するシンプルなスローガンを打ち出し、事実上この反フェミニズムの情念を政治利用したと評されています 。こうしたポピュリズム的戦略は短期的には一定の票につながりましたが、一方で女性や進歩的市民から「民主主義の価値である男女平等を後退させる動き」と強い反発を招きました 。韓国社会は民主化運動の成果として法制度上は男女平等や少数者の権利が保障されてきただけに、それを否定するかのような潮流との軋轢が生じているのです。
また政治的反動主義とも言える現象として、民主化勢力への歴史的バックラッシュ(逆戻り)も指摘されます。民主化以降も根強く残る一部保守層は、軍事政権期を美化・懐古する傾向があり、文在寅政権期に進んだ過去清算に反発して「뉴라이트(ニューライト)」と称する歴史修正主義的言説を展開しました。2021年の大統領選において尹錫悦候補(当時)は「전두환 대통령이 쿠데타와 5·18만 빼면 정치는 잘했다(全斗煥大統領は軍事クーデターと5・18さえ除けば政治はよくやった)」と発言し、大きな物議を醸しています 。この発言は民主化運動を踏みにじるものとして与野党・メディアから激しい批判を受け、尹氏は一応の謝罪を表明しましたが 、彼の支持基盤には依然として開発独裁期への郷愁を持つ層も存在します。実際、朴槿恵前大統領の弾劾後には、これに反対する保守強硬派が**「태극기부대」**(太極旗部隊)と呼ばれる大規模街頭デモを繰り広げ、一部は文在寅政権打倒を掲げて過激化しました。こうした現象は、市民革命としての民主化の流れに対抗し「既得権や伝統的価値を守る」ことを標榜する反動的ポピュリズムといえます。そこにはしばしばデマや陰謀論も交えて大衆の不安を煽り、民主主義的ルールより情緒や対立感情を優先する政治スタイルが見られます。
要するに、韓国の民主化運動の蓄積が生んだ制度化された民主主義と、市民意識の成熟は大きな財産ですが、その一方で近年台頭したポピュリズム・反動主義はその民主主義を新たな角度から試しています。これは単なる保革対立に留まらず、「民主化=進歩」と「反動=保守」という構図で社会の亀裂を深めかねない構造的対立軸です。男女平等や歴史清算といった民主化の成果を守ろうとする勢力に対し、「既得権を打破する」という名目で逆にそれらを否定する勢力が支持を広げている現状は、韓国民主主義にとって大きな課題となっています。韓国社会がこの軋轢を調整し、民主主義の深化と統合を図れるか否かが、今後の政治発展の鍵を握っていると言えるでしょう。
5. 韓国国内でのイ・ジュンソク評価:支持基盤と言論の見解比較
李俊錫に対する韓国内の評価は、賞賛と批判が鮮明に分かれています。その肯定的評価としては、「30代で既成政治に風穴を開けた改革者」「デジタル時代に適応したコミュニケーション上手な政治家」といった声が挙げられます。李氏が2021年に36歳の若さで野党党代表に選出された際、多くの国民は世代交代への期待を寄せました。実際、主要紙もその当選を大きく報じ、保守系の『朝鮮日報』は社説で「‘30대 이준석 대표’ 등 野에 청년 혁명, 낡은 정치 확 바꾸란 국민 명령(30代李俊錫代表など野における青年革命は、古い政治を根本から変えよという国民の命令だ)」と謳い、若いリーダー登場への期待感を表明しました 。進歩系『ハンギョレ』ですら「36살 이준석 대표, ‘보수혁신·정치변화’ 기대한다(36歳の李俊錫代表に『保守革新・政治の変化』を期待する)」と題する社説を掲載し、イデオロギーの違いを超えて若返りそのものは歓迎する論調でした 。支持者層を見ると、李俊錫を熱烈に支持するのはネット世代である20〜30代の男性が中心です。彼らは李氏の率直な物言いや既得権層への挑戦姿勢に共感を寄せており、「我々の鬱憤を代弁してくれる存在」と捉えています 。特に就職難や競争激化に晒される若年男性層にとって、李俊錫の唱える「逆差別是正」や「能力主義」志向は支持を集めました。一部では彼を支持するオンラインコミュニティが結成され、ネットスラングやミームを駆使して李氏を盛り立てる文化も生まれています。
しかし一方で、李俊錫に対する否定的評価・批判も根強く存在します。進歩派・女性層を中心に彼は「幼稚なヘイト政治家」「民主主義の価値を後退させている」と見なされています。とりわけ20代女性からの嫌悪感は顕著で、ある世論調査では**「20代女性が最も嫌う政治家」の筆頭に李俊錫の名前が挙がった**との報道もありました 。現に2022年大統領選の直前、若年層女性の間で「이준석 OUT」プラカードを持って抗議する動きまで報じられています(オンライン発のフェミニスト抗議運動)。彼女らにとって李氏は、女性の声を嘲笑しジェンダー対立を煽った張本人であり、韓国社会の男女平等進展に逆行する存在です。また保守陣営内でも、李俊錫に否定的な勢力は少なくありません。党内長老や伝統的保守層の中には、李氏の立てた戦略が女性や中道層の反発を招き選挙を危うくしたと非難する向きもあります 。2021年末から22年にかけての国民の力内部の葛藤では、李代表と尹錫悦候補(当時)の対立が表面化し、党内一部は李氏を「自己顕示欲が強く統制不能」と見做して彼の辞任を要求しました。結局李氏は党指導部から追放される形になりましたが、そうしたプロセスにも「若輩者の李俊錫には党運営は荷が重い」という年長世代の冷ややかな評価が垣間見えます。
韓国主要メディアも李俊錫に対してそれぞれ立場の違う論調を展開しました。進歩系メディア(例:ハンギョレ、京郷新聞、オーマイニュースなど)は、当初こそ彼の登場に一定の期待感を示したものの、彼のジェンダー発言が目立つにつれ強い批判に転じました。ハンギョレ新聞は社説で「民主化世代を嘲弄する無歴史的な妄言」として李氏の発言を糾弾し 、「彼は民主主義の理念に対する無知を露呈している」と断じています 。またオーマイニュースは詳細な分析記事の中で、李俊錫の戦略が20代女性の強い怒りを買い選挙のマイナス要因になった可能性を指摘しつつ、彼が作り出した20代男性支持層の影響力にも言及しました 。これら進歩系の論調は総じて、「李俊錫現象」は韓国社会の弱者分断を深める危険なポピュリズムだというトーンです。一方、保守系メディアは李俊錫に対し当初肯定的で、『朝鮮日報』は前述のように党代表就任時には世代革命として持ち上げました 。しかしその後、李氏と尹錫悦陣営の内紛が表面化すると『朝鮮日報』は一転して「新しい政治への期待を裏切る奇異な行動だ」と李氏を批判する社説を掲げました 。同紙は李氏が党内紛争中に代表職に固執した態度を問題視し、「젊은 리더로서의 책임感 부재」(若きリーダーとして責任感を欠いている)と評しています 。保守寄りの『中央日報』や『東亜日報』も論調はおおむね似通っており、李俊錫の斬新さは評価しつつも、党内対立や逸脱発言に対しては「未熟さ」を指摘する姿勢でした。中央日報のあるコラムニストは「李俊錫は瞬発力はあるが統合のビジョンを欠く」として、彼が一匹狼的に暴走する危険性に警鐘を鳴らしています(※中央日報2022年1月付コラム)。
総合すると、李俊錫は韓国政治において極めて評価の分かれる人物です。支持者にとっては既成政治を打破する象徴であり、「公正」を掲げる改革者ですが、批判者にとっては社会的弱者への配慮を欠き対立を煽るポピュリストです。その支持基盤は主に若年男性層・都市中産層にあり、逆に女性や進歩的市民層からの反発は強烈です。このような評価の二極化自体が、韓国社会の世代間・性別間の溝を表しているとも言えるでしょう。今後、李俊錫が評価を覆すような長期的ビジョンと統合力を発揮できるか、それとも一過性の「現象」に留まるのか――韓国の主要各紙も注目を続けており、その論調は韓国社会の世論動向を映す鏡となっています。
引用・参考資料(※出典は媒体種別ごとに分類、必要に応じ韓国語原文と日本語訳を併記)
メディア(進歩系): ハンギョレ新聞社説「‘전두환 미화’ 망언…윤석열の民主主義モラル欠如を露呈」 原文: “전두환 미화’ 망언으로 곤욕을 치렀던 윤석열 국민의힘 대선 후보가 이번에는 전두환 군사독재에 맞서 싸웠던 1980년대 민주화운동을 폄훼하는 망발…”(「全斗煥美化」という妄言でひんしゅくを買った尹錫悦候補が、今度は全斗煥軍事独裁と戦った1980年代の民主化運動を貶める妄言を…」) 日本語訳: 「尹錫悦候補はまたしても、全斗煥軍事独裁に抗した1980年代の民主化運動を貶める暴言を吐いた…」。 オーマイニュース記事「이대남은 정말 여가부 폐지에 열광했을까?(20代男性は本当に女家部(女性家族部)廃止に熱狂したか?)」 原文: “선거 과정에서 … 윤석열 국민의힘 대선 후보와 이준석 대표의 태도는 열광과 분노를 동시에 일으켰다. … 20대 남성이라는 ‘청년 지지층’을 형성했다는 성과를 높게 사야 한다는 이야기도 있다.”(選挙過程で…尹錫悦候補と李俊錫代表の態度は熱狂と怒りを同時に引き起こした。…20代男性という「若年支持層」を形成した成果を高く評価すべきとの声もある。) 日本語訳: 「選挙過程で…尹錫悦候補と李俊錫代表の態度は熱狂と怒りを同時にもたらした。しかし冷静に見ると、その熱狂が票に結びついたかは疑問だ…20代男性という『若い支持層』を作り出した功績は評価すべきとの声もある。」 プレシアン(Pressian)記事「이준석 ‘기존 파이 나누는 여성 할당제는 불공정’」 原文: “최근 논의되는 할당제 등은 … 기존에 있는 ‘파이’를 여성과 남성이 나누는 부분에 대한 것이다. 이런 부분은 상당한 불공정을 야기할 수 있기 때문에…”(最近議論されている割当制等は…既存のパイを女性と男性が分け合うものだ。このような部分は相当な不公正を引き起こし得るため…) 日本語訳: 「最近議論されているクオータ制などは…既存のパイを女性と男性で分け合うものだ。このような手法は重大な不公正を招きかねないため…」。 また同記事では李俊錫氏の過去発言として、“여성이 안전하지 않은 보행 환경 때문이라는 말은 망상에 가까운 피해의식”, “2030 여성들이 … 근거 없는 피해의식을 가지게 된 점도 분명히 있다” と紹介。これは「『夜道が女性にとって安全でないから歩きたくない』というのは被害妄想に近いし、20〜30代女性が根拠のない被害意識を持つようになっているのも確かだ」という李氏の発言で、女性差別を否定する内容として批判された。 ハンギョレ新聞記事「“이준석 대표 당선이 세대교체? 전략적 선택이다”」 原文: “한국 헌정사상 최초로 36살 청년이 유력 정당 대표에 오른 ‘일대 사건’이라 …”(韓国憲政史上初めて36歳の青年が有力政党の代表に上がった「一大事件」で…) 日本語訳: 「韓国憲政史上初めて36歳の青年が有力政党の代表に就任した『一大事件』で…」(李俊錫党代表当選に関する報道)。 メディア(保守系): 朝鮮日報社説「‘30대 이준석 대표’ 등 野에 청년 혁명…」 原文: “국민의힘에서 36세 청년 이준석이 당대표로 선출됐다. … 30대 당수가 나온 것은 헌정 사상 처음이다.”(国民の力で36歳の青年李俊錫が党代表に選出された。…30代の党首が出たのは憲政史上初めてだ。) 日本語訳: 「国民の力で36歳の青年、李俊錫氏が党代表に選出された。30代の党首が誕生するのは憲政史上初のことである。」 朝鮮日報社説「새 정치 기대 저버린 이준석 대표의 기이한 행태」 原文: “이준석 … 당대표는 스스로 그만두지 않으면 사퇴시킬 방법이 없다고 한다.”(李俊錫…党代表は自ら辞めない限り辞職させる方法がないという。) 日本語訳: 「李俊錫…党代表は自ら辞めない限り解任する方法がないという。(※党内危機時に李氏が辞任拒否した状況への批判)」 東亜日報記事(2021年10月20日)「윤석열 ‘전두환 옹호’ 논란」 (※東亜日報を含む複数の保守系メディアが、尹錫悦候補の「全斗煥擁護」発言について批判的に報道 。尹氏自身も「軽率だった」として遺憾を表明した 。) 政府・機関資料: 민주화운동기념사업회(民主化運動記念事業会)オープンアーカイブ「노무현, 역사속으로 걸어 들어가다」(2016年) 内容: 盧武鉉氏の人権弁護士としての活動(1981年釜林事件の無料弁護)、1985年釜山民主市民協議会への参加、1987年6月抗争での釜山国本常任委員長としての闘争などを記録。 原文抜粋: “1987년 6월항쟁의 흐름속에서 민주헌법쟁취국민운동본부(국본)가 결성되자 부산 국본의 상임위원장을 맡아 부산 민주화운동의 야전사령관이 되어 거리에 나왔다.” 日本語訳: 「1987年6月抗争の流れの中で民主憲法争取国民運動本部(国本)が結成されると、盧武鉉弁護士はその釜山本部の常任委員長を引き受け、釜山民主化闘争の野戦司令官として街頭に立った。」 韓国民族文化大百科事典「참여정부(參與政府)」(韓国学中央研究院) 内容: 参与政府(盧武鉉政権)の定義と評価について解説。 原文抜粋: “노무현 참여정부의 최대 업적은 민주화 이후 남아있던 권위주의 제도와 문화를 청산한 것이다.” 日本語訳: 「盧武鉉参与政府の最大の業績は、民主化以後も残っていた権威主義の制度と文化を清算したことである。」 日本経済新聞出版社 書籍紹介『日韓の決断』(峯岸博著, 2023年) 内容: 尹錫悦政権の対日政策転換と日韓関係改善への意欲を紹介。 原文抜粋: “2022年5月に韓国大統領に就任した尹錫悦氏は、文在寅前政権の対日政策を刷新し、『国交樹立以降で最悪の状態』を改善するため大きく舵を切った.” / “従来の韓国の政権とは大きく異なる尹大統領の決断…” 日本語訳: 「2022年5月に韓国大統領に就任した尹錫悦氏は、文在寅前政権の対日政策を刷新し、『国交樹立以来最悪の状態』だった両国関係を改善すべく大きく舵を切った。」 / 「従来の韓国政権とは大きく異なる尹大統領の決断…」。 日本経済新聞電子版コラム(峯岸博執筆, 2020年10月9日)「北朝鮮優先の文政権が受け継ぐ『NL系』学生運動の系譜」 内容: 文在寅政権の中枢を占める「86世代」学生運動出身者(特にNL系)の思想的背景を分析。 原文抜粋: “임종석氏は NL系の元指導者だ… 7月の大統領府人事で再び起用された. 문 대통령はさらに, 全大協 初代議長だった 이인영氏を 統一部長官に抜擢した.” / “보수系の政治学者は語る. ‘현재の青瓦台で文大統領を囲む参謀たちの関係も似ている’” 日本語訳: 「任鍾晳氏(文政権初代秘書室長)はNL系の元指導者だ…文大統領はさらに、全大協初代議長だった李仁栄氏を統一部長官に抜擢した。」 / 「保守系政治学者は語る——『現在の青瓦台で文大統領を取り囲む参謀たちの関係も(かつてのNLの上下関係に)似ている』」。 SNS: 峯岸博氏のX(旧Twitter)投稿 (日本経済新聞論説委員として自己紹介) 内容: 著書『日韓の決断』の紹介文や担当分野の説明。尹政権登場やイデナム(20代男性)・イデニョ(20代女性)の実像分析に関心を示唆する内容。 (※信頼性補足: 峯岸氏本人の発信であり論説委員の公式見解ではないが、その問題関心の一端が窺える)。 李俊錫氏フェイスブック投稿(2021年4月ソウル市長補選直後) 内容: 「20대 남자. 자네들은 말이지…」と20代男性に呼びかけ、保守候補勝利への貢献を称賛した投稿。 原文: “20대 남자. 자네들은 말이지…”(20代の男子諸君、君たちはね…) 日本語訳: 「20代の男性諸君。君たちは…」(※以下に選挙勝利を讃える文言が続く). (※信頼性補足: SNS上の政治家本人の投稿であり、一次資料だが発言内容の真偽は投稿者の主観に基づく。)
(以上)