峯岸博論考の「設計図」を暴く

――“嫌中・反米”を梃子に日本を押し上げる物語

■ はじめに

日本経済新聞の編集委員・峯岸博による「韓国・慶州に舞う嫌中・反米の風、日本を高みに吹き上げる」という記事は、一見すると韓国情勢の分析のように見える。
だがよく読むと、そこには「日本を中心に据え直す物語」を組み立てる意図的な構成がある。
これは筆者が呼ぶところの「コリア・ハンドラー」的言説――
旧宗主国意識に基づき、朝鮮半島を再び日本の勢力圏的文脈に戻そうとする“言論上の工作”――の典型だ。


1. 「風」で始まり「風」で終わる記事構造

記事のタイトルにある「嫌中」「反米」「風」は、いずれも感情語である。
しかし、本文で示される事象はそれぞれ異質だ。

  • APECという外交イベント
  • ジョージア州での韓国人労働者拘束(司法・移民問題)
  • 米韓通商交渉の難航(経済安全保障の課題)

これらを「一つの風」に束ねるのは、分析ではなくレトリックだ。
現実の韓国社会では、外交・労働・貿易の文脈はまったく別の層で動いている。
それを“民心”という曖昧な言葉で一括りにすることで、政治を感情劇にすり替えている。


2. データの使い方が恣意的すぎる

峯岸は「EAIの調査で中国への否定的認識が71.5%」と書く。
これは事実だが、質問内容や年度の推移に言及しない。
数値を一枚切りにして「嫌中」という感情の証拠に使うのは、
社会科学的な分析ではなく政治的な演出だ。

同様に、李在明大統領の支持率が「外交が不支持理由の首位」とするくだりも、
実際の世論調査の設問や時期差を無視しており、
“外交=不人気”という物語を補強するための道具化にすぎない。


3. 因果の飛躍 ― “だから日本が上がる”

記事後半の転調は見事に「コリア・ハンドラー」的だ。
“嫌中”“反米”を踏み台に、「日本のポジションが上がる」と結論づける。
その根拠は薄く、数字も成果も出てこない。
ただし読者の心理には「日本はまだ頼られている」という快感だけが残る。

極めつけは「原子力潜水艦建造の承認」までを“風”の副産物のように書く点だ。
国家戦略級の安全保障決定を“空気”の流れで説明する――
これこそ旧宗主国的マインドの象徴である。


4. 「民心」という万能の呪文

峯岸は繰り返し「韓国の民心が外交を揺さぶる」と書く。
しかしこの言葉は便利すぎる。
民主主義社会の世論や政策決定を“気分”で説明することで、
韓国の政治的主体性を奪い、常に「感情で動く国」として描く。
一方で日本の政策判断は「現実主義」として高みに置かれる。
これがまさに「コリア・ハンドラー」言説の根っこにあるヒエラルキー構造だ。


5. 「日本の正常化」を“自然現象”に見せるトリック

記事終盤、「嫌中」「反米」の風が日本を“高みに吹き上げる”と書く。
ここで日本の首相交代、高市早苗政権、靖国参拝、安倍継承といった
右派的要素が登場するが、それらは安全保障の強化=自然な流れとして処理される。
つまり、

  • 韓国の感情的混乱
  • 日本の現実的安定
    という対比が、読者の無意識に“序列”を再構築するよう仕組まれている。

6. もし本当に分析するなら

本来、ジャーナリズムなら以下の三点を分けて書くべきだ。

  1. 事実の層別:外交・司法・通商を混ぜずに論じる。
  2. データの系列化:世論調査は年次比較・設問比較を伴う。
  3. 仮説の検証:日本“浮上”論を裏づける実際の外交成果を示す。

だが本稿はそれを避け、“感情の風”で物語を閉じる。
分析を装った物語の操作である。


7. まとめ ― 「風が吹けば日本が儲かる」

峯岸の筆は上手い。構成もテンポも読みやすい。
だが、その物語構造は
「韓国の混乱 → 日本の高み」というワンパターンであり、
読者の“安心感”を装った旧宗主国的願望にすぎない。

つまり――

風が吹けば、日本が儲かる。

この単純な構図こそ、
「コリア・ハンドラー」的言説の最も危うい魅力である。


Published by Atsushi

I am a Japanese blogger in Korea. I write about my life with my Korean wife and random thoughts on business, motivation, entertainment, and so on.

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