賢い移民生活:同胞編

珍しく夜にパソコンに向かう時間が出来ました。 最近感じたことを書きたいのですが、何かというとやはり私が韓国に暮らしながら、ある意味一番神経を使っているのが、実は日本人との付き合い方なのだということです。 ツイッターでは食べ物や風景の写真ばかりで、あまり触れませんが、私はソウルで働いているようです。まあ、毎朝「俺たちのソウルメトロ」の実況をしている生活パターンからバレているかも知れません。お仕事でも、日本人と会います。とてもいい人です。 普段の生活では、めったに日本人に会うことはありません。妻も韓国人ですし、韓国での友達も大体韓国人です。韓国に住んでる日本人のお友達は、本当に本当に数が限られています。お友達でいてくれてありがとう。 さて。 仕事、生活、と来れば(?)、残りはツイッターです。ツイッターの合間に仕事と生活をしている疑惑もありますね。 ツイッターというのはご存じの通り、エコーチェンバーです。つまり、少ない声が共鳴しあって、大きな声になる場所です。 韓国に住んでる日本人というのは、世の中的には少数派です。コロナ前ですが、日本外務省の方の統計(https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/tokei/hojin/index.html)によると、令和元年10月1日現在の在韓邦人数は45,664人ということです。5万人いないんですね。コロナが起きてから、日韓の往来はたとえ長期ビザがあってもかなり限られていることから、今でも5万人前後であると推測されます。日本の人口が1億、韓国の人口が5千万、その中の5万人です。少ない。 しかしながら、ツイッターではそうは思えません。私は在韓邦人です。なので、在韓邦人を中心にフォローしています。そうすると、フォロー先の人たちのフォロー先の様子も目に入ってきます。気が付けば周り中在韓邦人だらけ。 在韓邦人のツイッター世界も、かなり多様性があります。一番目立つのは、留学生でしょうか。韓国が好きでまたは韓国で何かを学びたくて、若かったり若くなかったりする人たちが学び舎や街での経験を綴っています。それから数では日本人妻が圧倒的に多い気がします。名節のたびに義実家(シデク)との緊張関係が滲み出ていて、こっちまで緊張してきます。あと、数は少ないですが、現地で就職ビザを取って働いている人たちとかもいます。社会的には駐在員もたくさんいるのですが、ツイッターではあまり目立ちません。 人が集まれば争いも生まれます。これは古今東西変わることがありません。何も外国に来てまで喧嘩しなくてもという感じですが、やっぱり喧嘩は起きます。どこに住んでいる、何を食べている、何を言った、全てが喧嘩の種になります。火事(炎上)と喧嘩(罵り合い)はツイッターの華。 韓国現地での政治状況が在韓邦人も陰に陽に分断していると感じることがあり、面白かったです。文在寅大統領を支持するのか批判するのか、どんな不動産に住んでいるのか、子供にはどんな教育を受けさせるのか、まさに韓国人の悩みが在韓邦人の悩みそのものになっているのが感じられます。僕も他人事じゃない。 若いころには喧嘩があれば飛んで行った僕ですが、結婚してやはりというかこの頃は落ち着いています。喧嘩をするのも楽しいですが、ちょっと呼吸を置いて、みんなの顔を少しずつ観察しているのも楽しいです。 私は元々中国畑の人間ですが、華僑に関する本を読み漁っていた時期もあります。華僑は現地社会と決して摩擦を起こさないよう、政治的主張をせず、波風を立てず、商売に専念する。そういうイメージがあるかも知れませんが、まあおおむね正しいようです。振り返って韓国の日本人社会はどうでしょう。社会というほどの実態があまりないような気もします。駐在員は何年かで必ず帰国する。日本人街を作らなきゃならないほど食を含めた文化の違いも無い。あとは、日本人妻の割合が多いので、現地社会と溶け合っている雰囲気が強い。どうもそんな感じである気がします。はいそこ、そうじゃない人もいっぱいいるって反論をしようとしたそこのあなた、今わたしは概略図を描いているんですから。 この記事は「賢い移民生活:同胞編」と題しています。某ドラマのパロディですが、実際に賢く移民生活を送るためにはどうすればいいのか、同胞(日本人のこと)とどう付き合うべきか、しばしば考え込んでしまうのです。お仕事を頑張って経済的に成功したい!日本人社会とは関わり合いにならないまま現地で幸せに暮らしたい!そういう考えと、日本人たちとも程よく付き合って、いい感じに祖国との絆を保っていきたい…そういう考えが交互に訪れる気がします。 さらに言うと、何かの文学サークルのような人たちが回し読みしているらしい雑誌で、「在韓在日」という言葉もあるらしくて、要は日本で在日コリアンと呼ばれている人たちで韓国に暮らしている人たち、つまり「在韓在日コリアン」の人たちのことなのですが、そういう人たちは日本では韓国を意識させられ、大決心して韓国に来てみれば日本人扱いされ、みたいな僕には一生分からない深い深い心の傷を負わされて生きているらしい。日本人も在日も、韓国の地では日本語圏から来た何者か、みたいな雑なカテゴリに入れられるような気がします。だから仲間だよ、とは軽々しくは言ってはいけないけど。 いずれにせよ、同じ日本から来て韓国に住んでいる人たちというのも、詳しく見ていくとかなり色々な人たちがいて、全員と仲良くすることはもちろん無理でしょうけれど、かといってまるっきりシャットアウトする気にもなれない、何というかそういう不思議な圧を感じます。多分、賢い移民生活を送るためには、あまり旗幟鮮明に何らかのスタンスを取るのではなく、是々非々で柔軟に対処していくのが必要なのでしょう。同胞についても、程よく付き合っていくのが一番悪くない道なのかも知れません。

【閲覧注意】朴正熙記念館に行ってきた(ダークツーリズム)

ヤバい博物館に行ってきた。韓国のかつての独裁者、朴正熙大統領の生家である。 なお、今回の記事には非民主的な事件が記述されているので、読者には気を付けていただきたい。私には朴将軍の業績を一切称賛するつもりは無い旨を予めご了承頂きたい。これは、いわゆるダークツーリズムの一種である。 さて、朴正熙大統領(以下、朴将軍)の生家は、韓国東南部の慶尚北道、亀尾(「かめお」ではなく「クミ」)市にある。 入り口で、セマウル運動を模した銅像が出迎えてくれる。 セマウル運動といえば、朴将軍が推進した農村改革の富国強兵策のひとつである。そうそう、この記念館のある場所は、目の前の道路がなんと「朴正熙路」、もうひとつが「セマウル路」だった。 朴将軍の生家は小さな農家風の建物だった。貧しい生まれということ。 朴将軍の生家すぐ裏は山だった。 生家には廟堂が付設されている。 保守王国として知られる、この慶尚道では、朴将軍にシンパを感じる人が今でも多い。妻は大邱の出身だが、妻の母上は「あの人は立派な人、貧しかった韓国を取り合えず食えるようにしてくれた」と言っている。この生家の展示を見ると、実際貧しさから身を起こして国家発展のために生涯を捧げた立派な人に見えなくもない。だが、そんな精一杯好意的に見ようとする試みも一瞬で打ち砕かれる偏向展示が私を待ち受けていた。 生家の隣には「民族中興館」なる名前の博物館があった。展示内容はひどく偏ったものだった。 朴将軍と言えば1961年の軍事クーデターであるが、この記念館にはクーデターという単語は使われていない。5•16革命という名で美化されている。 また、朴将軍と言えば言わずと知れた親日派(チニルパ)である。日本陸軍士官学校や満州軍官学校を出て将校勤務をしたことを知らぬものはいない。が、ここでは一切そんな記述は見られない。小学校で教職を勤めて辞めた後、何かいきなり光復を迎えることになっている。 とにかく偏った記念館だった。芳名録も完全に朴将軍に私淑する親日右翼コメントばかりだった。 韓国語が読めない人のために、資料として日本語パンフレットを掲載しておく。親日右翼がこういう世界観であると知っておくことで、韓国や日本で反共を煽っているのがどういう人間なのか少しはわかるかもしれない。 (以下も閲覧注意)

韓国料理: ソルロンタン

ソルロンタンを食べに来ました。 アツアツで美味しいです。 この店はコクがあって旨い。 ソルロンタンの店は大抵キムチが旨い。 ソルロンタンにカクトゥギをぶちこんで食べるのが韓国のアジョシ(おじさん)流。 お値段は9,000ウォンです。千円弱といったところ。 #韓国料理 #ソルロンタン

イ・グゥアンフィ『これが空売りだ』21世紀ブックス、2019年(韓国語書籍)を読む

空売り(short selling/공매도)は、他人の持つ株(またはその他金融商品)を借りてきて、それを売るという行為である。ややこしいが、その意図するところは「何かの価格が下がる方に賭ける」というものである。空売りはイメージが良くない。それはそもそも他人の物を売るという行為が直観的に理解しがたいこともあるが、投資家というのはそもそも価格が上がることに賭けるのが投資だと思っているため、わざわざ価格を下げるような行為をする空売りというものに対して敵意をもつのも大きな理由だろう。 今日紹介する書籍はイ・グゥアンフィ『これが空売りだ』21世紀ブックス、2019年(韓国語書籍)である。タイトルが示す通り、この本は空売りという金融技法について総括的、学問的に広く深く述べている。先週の予告でも紹介した通り、著者のイ・グゥアンフィ教授は空売りに関する世界的な権威であり、現在韓国のソウル大学経済学部で教授職にある。 忙しい読者のために、本書のまとめとして著者が紹介している3つの提案と1つの提言から紹介したい。 ・3つの提言 1.空売り関連をインフラ拡充すべき 2.個人投資家の空売り機会を拡充すべき 3.事前的な規制に力を入れすぎず、事後的に明らかになった反則への処罰を大幅に強化すべき ・1つの提案 空売り(공매도)という呼称を、借売り(차입매도)に変えてはどうか 著者は何故このように空売りを積極的に擁護するのか?それは、空売りには市場の「価格効率性」を実現する力があるからである。 著者が言及しているたとえ話の中で、印象的なものを紹介したい。中国で、毛沢東が「すずめ」を害鳥として駆除を命じたことがある。すずめは農作物を食い荒らすからである。ところが、すずめが駆除されてしまった結果、すずめを天敵としていた害虫が増えてしまい、結果的にすずめより多くの農作物の被害が生じたという。空売りも同じである、と著者は言う。空売りそのものにも弊害はあるが、空売りを禁止してしまうと市場は正しく機能しない。空売りがないと、「適正価格(公正価格)」が実現されないのである。 例えば、空売りを規制している国では、株価に否定的な影響を与えるであろう情報は、なかなか価格に反映されない。しかし、空売りが認められている国では、素早く価格に反映される。経済学において効率的であるというのは、情報がタイムラグ無しに共有されるという意味合いがあるので、空売りが情報共有の速度に貢献しているというのは、価格の効率性の一助になっているというのと同じである。(Bris, Goetzmann and Zhu, 2007) また、香港の空売り市場の研究によれば、香港では空売りしていい会社リストというのがあり、それは定期的に更新されるという。空売りの対象となった会社の株価は、リスト登録後に実際に価格が下落するが、それは一時的な現象ではなく、下がったままである。これは、一時的に空売りによって価格が下がったのではなく、その会社の株価が本来あるべき水準に回帰したと考えられるべきという。(Chang, Cheng, Yu, 2007) 逆に、空売りが規制されると市場にどういう影響があるのだろうか?一言で言うと、空売り禁止は史上の流動性を低めてしまう。簡単なことで、空売りというのは「売り」の立場で市場に参加する権利を提供するので、空売りが禁止されればその分「売り」が減ってしまう。これが流動性を低めるということである。結果として市場効率性も阻害される。皮肉なことに、空売り規制というのは例えば相場が暴落する状況(恐慌など)で、価格下落を阻止するために金融当局が命じることが多いのだが、空売り規制をしても株価を支える助けにならないばかりか、意図とは逆に株価をさらに下げてしまう可能性さえあるのだ。(Beber and Pagano, 2013) このように、空売りというのは効率的な市場を維持するためには欠かせないものである一方で、常に批判にさらされてきた。著者のイ・グゥアンフィ教授は、2020年に韓国金融当局が空売り規制をした際に、空売りの是非をめぐる研究を依頼されたと報道された。同様に依頼を受けた同じくソウル大学教授であるアン・ドンヒョン教授が空売り規制派であるのに対し、イ・グゥアンフィ教授は空売り擁護派として知られる。 韓国金融当局は2021年5月に空売りを再び解禁する方針だが、今後の動向が注目される。特に、2021年1月に米国個人投資家が機関投資家の空売りに対抗して米国ゲーム会社の株価を暴騰させた事件の後、空売りの是非に関する注目が韓国内でも再び高まっている。韓国では2020年に国内不動産保有に関する規制が強化された後、個人投資家が不動産から株に資金を振り返る傾向が強まり、サムスン電子などを含む国内株式保有率の個人投資家率が大幅に増えているためだ。空売りが韓国で解禁された場合、米国同様に「機関投資家による空売り」対「個人投資家による買い支え」のような株式市場の狂乱が再現されかねない。 このように激しく変化する株式市場における空売りの意味を正確に理解するためにも、イ・グゥアンフィ教授の『これが空売りだ』は必読書であると言えよう。 이관휘, “이것이 공매도다” 21세기북스, 2019년 イ・グゥアンフィ『これが空売りだ』21世紀ブックス、2019年(韓国語書籍) 目次 1部 空売りとは何でないか    空売りについてのよくある誤解 ・空売り、その正体は何なのか ・ネーミングの失敗と誤解の始まり ・韓国及び米国における空売りの現状 ・空売りをめぐる制度の変化 2部 空売りの悲哀   批判ばかりされがちな空売りのための弁論 ・空売りに一石を投じるのは誰か ・「空売りが株価を下落させる」? ・「空売りが株価変動の元になる」? ・価格操作という刺激的な誘惑? ・未公開情報を利用する空売り? 3部 これが「本当の」空売りだ    予測と洞察で金融エコシステムを守る ・空売りの最大の長所:価格効率性 ・市場における異常事態と空売り ・空売りは流動性を供給する ・空売りは嘘つきに噛みつくハンターである ・多様な投資とヘッジ戦略の手段Continue reading “イ・グゥアンフィ『これが空売りだ』21世紀ブックス、2019年(韓国語書籍)を読む”

今日の韓国カフェ

江華島のパダポダというカフェに来ました。 中はこんな感じ 3階建てなんですよね 肝心の食べ物です。 コーヒー(アイスアメリカーノと呼ばれています)とチーズケーキがそれぞれ6,000ウォンずつでした。大体600円ずつといったところでしょうか。 メニュー板です。韓国語が分かる方は読解にチャレンジしてみても面白いかも! そうそう、3階にルーフトップ(屋上テラス)席がありましたよ。 屋上からだと、海がよりよく見えますね。 広々とした駐車場。ここは郊外なので、いいですね。 パダポダ(海を見る)というカフェでした。 住所等は私の韓国語ブログの方に書いておいたので、韓国在住で、もしもこのカフェを訪れたい方はご覧ください。 https://m.blog.naver.com/atsushiseoul/222235226816 それでは!

(ブログ記事作成予告)イ・グゥアンフィ『これが空売りだ』21世紀ブックス、2019年(韓国語書籍)を読む

読みたい本はたくさんあっても時間は限られているので、宣言することで自分を追い込もうと思う。 来たる2月7日(日曜日)に当ブログにて、以下の書籍を紹介する予定である。著者のイ・グゥアンフィ教授はソウル大学経済学部の教授であり、金融理論、中でも「空売り」に関する研究では世界的な権威である。私もソウル大学MBA時代に教授の授業を受講し、それまでよく知らなかった空売りについての体系的な説明に初めて接し、感銘を受けたものである。 イ・グゥアンフィ『これが空売りだ』21世紀ブックス、2019年(韓国語書籍) https://book.naver.com/bookdb/book_detail.nhn?bid=15373384 韓国金融当局は2021年3月に空売りを再び解禁する方針だが、今後の動向が注目される。特に、2021年1月に米国個人投資家が機関投資家の空売りに対抗して米国ゲーム会社の株価を暴騰させた事件の後、空売りの是非に関する注目が韓国内でも再び高まっている。韓国では2020年に国内不動産保有に関する規制が強化された後、個人投資家が不動産から株に資金を振り返る傾向が強まり、サムスン電子などを含む国内株式保有率の個人投資家率が大幅に増えているためだ。空売りが韓国で解禁された場合、米国同様に「機関投資家による空売り」対「個人投資家による買い支え」のような株式市場の狂乱が再現されかねない。 参考記事:アリとロビンフッド https://atsushiseoul.com/2021/01/30/%e3%82%a2%e3%83%aa%e3%81%a8%e3%83%ad%e3%83%93%e3%83%b3%e3%83%95%e3%83%83%e3%83%89/ このように激しく変化する株式市場における空売りの意味を正確に理解するためにも、イ・グゥアンフィ教授の『これが空売りだ』は必読書である。 이관휘, “이것이 공매도다” 21세기북스, 2019년 イ・グゥアンフィ『これが空売りだ』21世紀ブックス、2019年(韓国語書籍) 目次 1部 空売りとは何でないか    空売りについてのよくある誤解 ・空売り、その正体は何なのか ・ネーミングの失敗と誤解の始まり ・韓国及び米国における空売りの現状 ・空売りをめぐる制度の変化 2部 空売りの悲哀   批判ばかりされがちな空売りのための弁論 ・空売りに一石を投じるのは誰か ・「空売りが株価を下落させる」? ・「空売りが株価変動の元になる」? ・価格操作という刺激的な誘惑? ・未公開情報を利用する空売り? 3部 これが「本当の」空売りだ    予測と洞察で金融エコシステムを守る ・空売りの最大の長所:価格効率性 ・市場における異常事態と空売り ・空売りは流動性を供給する ・空売りは嘘つきに噛みつくハンターである ・多様な投資とヘッジ戦略の手段 4部 空売りは絶対に必要である    グローバル株式市場に答えを求めて ・空売りと価格効率性に対するグローバル実証研究 ・金融危機を悪化させた「空売り禁止」 ・香港の空売り規制を通じて分かること ・グローバル市場での空売り規制の回避は可能か? 著者について イ・グゥアンフィ(이관휘) 空売り及び株式流動性に関する世界的権威。ソウル大学経済学部教授。 ソウル大学経済学部、米国ノースカロライナ大学、オハイオ州立大学で学んだ後、韓国に帰国し高麗大学教授などを歴任後現職。韓国国内で金融理論に関する数々の活動への受賞歴あり。 “Short-Sale Strategies and Return Predictability” “It’s SHO Time! Short-SaleContinue reading “(ブログ記事作成予告)イ・グゥアンフィ『これが空売りだ』21世紀ブックス、2019年(韓国語書籍)を読む”

アリとロビンフッド

米国の個人投資家が証券投資アプリ「ロビンフッド」を使って特定の銘柄を集団で買い注文を入れる運動が起きたというニュースを見て考え込んでしまった。 https://jp.reuters.com/article/retail-trading-robinhood-anger-idJPKBN29Y0AZ このニュースによると、同銘柄は機関投資家が空売りするのを察知した個人投資家の有志達が、インターネットで情報交換をしながら買いの注文を一斉に入れ、同銘柄の価格が暴騰したということのようである。空売りというのは価格が下がる方に賭ける行為なので、空売りを仕掛けた機関投資家は大損をしたはずということである。 米国ではコロナ以降、給付金を貰って手元に現金が舞い込んできたうえにロックダウンで時間を持て余した若者が、ロビンフッドのような手数料無しの証券投資アプリで株売買を行うのが流行しているというのは私も聞き及んではいた。「ロビンフッド族」という言葉も知ってはいた。 しかし、このニュースが興味深いのは、明らかに個人投資家のちょっとした小銭稼ぎとは違う次元での盛り上がりを感じることである。 「機関投資家のような金融エリートをぎゃふんと言わせたい」 「価格の乱高下で多少損をしても、この祭りに参加して盛り上がりたい」 何というかそういうイベント性を感じる。特に前者は、2008年のリーマンショックで高い失業率に苦しんだ今の30代くらい(まさに私の世代だが)による復讐のような情緒を感じる。政治的には正反対だろうが、「ウォール街を占拠せよ」運動にすら近いものを感じた。 金融市場への向き合い方と、政治的な傾向というのは、昔はパターンが決まっていた。金融と言えば資本主義の中の資本主義であり、そこに関わる人間はバリバリの市場原理主義者・リバタリアン・または完全なるノンポリという人が中心だったのではあるまいか。 ところが最近は上述の米国のロビンフッド族もそうだが、何となく政治的には反資本主義の人間でも、(背に腹は代えられないからか)金融市場のゲームに参加するパターンが増えてきた気がする。 実は韓国でも、こうしたロビンフッド族的な動きがある。「東学アリ」というのがそれである。 「東学アリ」というのは、 ・東学=東学農民革命(日帝時代の暴政に対して韓国人が英雄的に抵抗した故事) ・アリ=力のない、多くの個人投資家を指す投資業界の俗語。日本語だと「イナゴ」だろうか の合成語である。割と最近できた言葉である。 この「東学アリ」たちが、2021年の韓国証券市場に過熱感を与えている。 つい先日、1月の半ばにもKOSPI指数が史上初めて3000を超えたというのが大きなニュースになった。サラリーマン出身で財閥トップまで上り詰めた、経済通が売りだった李明博大統領でも達成できなかったKOSPI3000突破を、市民活動家出身の文在寅大統領の時代に成し遂げたのである。 なぜわざわざ政治的な左右を対比させて書くのかというと、実際にこのKOSPIの上げに寄与しているのが、多くの韓国人国内個人投資家であるかららしいのだ。データはまだ確認していないが、一部報道によると韓国株の代表とも言えるサムスン電子の所有率は、2019年末には3%台だったのが、2020年末には7%ほどに急増しているという。 https://www.mk.co.kr/news/stock/view/2021/01/28950/ この個人投資家の熱心さの背景にはもちろん、不動産投資への規制という大環境の変化もあるだろうが、どうもロビンフッド族に似た情緒的なものもかなりあるような気がしている。ただ単に「アリ」と自嘲するのでなく、「東学アリ」というネーミングが付いていることからも感じる。東学農民革命は日本帝国主義に対する韓国人の一般大衆による英雄的な抵抗運動であった。 東学アリが行っている株投資は、韓国を代表する企業であるサムスン電子の株が半分以上が外国人投資家に所有されている状況に対する反乱であり、また、海外特に日本のような国に不当に貶められ低評価にさらされてきた韓国経済を自分たちで再評価していこうという一種の社会運動に近いのではないだろうか。そこに、(株式投資で)ウォール街を懲らしめてやろうというロビンフッド族に似た情緒を感じるのである。

【書籍紹介】李正熙『韓半島華僑史』(韓国語書籍)

近代韓国には、最も多い時で8万人の中国人が暮らしていた。 従来の歴史研究では、韓半島から中国東北部(「満州」)への人的移動の研究は多くても、逆方向すなわち中国から韓半島への移住の動きについての研究はあまり多くなかった。 東アジア近代史を顧みる時、韓半島の華僑は多くの役割を果たしている。山東省(韓半島の華僑の8割は山東省出身)の資本が韓半島に流入し、東アジア域内通貨の移動を促進し、また、中国人商人・工人・農民が各種の技術を韓半島に伝播させた。野菜の栽培技術・中華料理・鋳物工場の技術などがそれである。 しかし、韓半島の華僑は、日中戦争と華僑排斥運動によって、日帝時代の後半までにはほぼ活発な経済主体としては消滅している。その経緯について、実証的なデータを基に検証した学術的な素晴らしい本が、この李正熙『韓半島華僑史』東アジア社、2018年出版(2021年現在、韓国語のみ)である。 李先生は日本の福知山大学でも教鞭をとられた、韓半島地域研究の専門家でいらっしゃるらしい。今は仁川大学にてやはり華僑史の研究をされているという。 https://book.naver.com/bookdb/book_detail.nhn?bid=14107798 https://blog.naver.com/atsushiseoul/222219746555

【書籍紹介】小島寛之『完全独数 統計学入門』と『完全独習 ベイズ統計学入門』

一つの発見を、本一冊丸々費やして丁寧に解説すると、ここまで分かりやすいのか。 小島寛之『完全独数 統計学入門』と『完全独習 ベイズ統計学入門』は、そういう感動のあるシリーズである。 『完全独数 統計学入門』では、一般的な統計学の基本定理である「t分布による区間推定」を紹介するために、本一冊200ページ丸々費やしている。 「t分布による区間推定」というのは、正体不明の集団を観察する時に、その中から一部のデータを取ってくる。そのデータだけを以て、正体不明の集団の平均値がどのくらいなのかをある程度の精度で推測することが出来る思考法である。それは一つの公式で表すことが出来る。 この本がすごいのは、その一つの公式を理解するために、本当に四則計算さえできれば誰でも分かるように順を追って解説しているところである。我々が学校教育で何かの数式を学ぶときに、ここまで丁寧に解説を受けることというのはほぼ無いと言っていいだろう。 『完全独習 ベイズ統計学入門』についても同様である。『完全独習 ベイズ統計学入門』では、ベイズ統計学の基本を解説している。ふたを開けてるまでどう転ぶか分からない世界で、ふたを開けることで我々人間は新たな情報を手に入れる。情報が手に入れられると、情報が無かったころに「あり得たかも知れない世界」を否定し、確率の精度を上げていくことができる。 この本がすごいのは、「あり得る世界」を面積図で表現することで(そしてそれは正確な表現である)、情報を得ることによって確率というのは変わっていくというのを視覚的に表現していることである。 小島寛之先生というのはすごい人だと思う。

今週の #韓国ブロックチェーン (2020年12月13日週)

#韓国軍 #新韓銀行 #クレイトン #一級機密 #セウォル号 韓国軍の兵器システム獲得に関連して、今まで手書きが中心であった諸文書(企画、予算、試験評価等)をデジタル化、共有化するプロジェクトが開始される。2023年3月完成目標とのこと。 システムは外部業者である(株)ケイサインという企業が開発するという。ケイサインのホームページはこちら。 本件に関連して、軍の担当者(国防電算情報院長)が述べる「国防獲得情報システムが完成すれば、兵器システム調達事業に効率性と透明性がより一層向上する」というコメントについて、一点だけ補足したい。 2017年の韓国映画に『一級機密』という作品がある。 陸軍の将校が国防本部に転属になり、軍備の調達業務の責任者となる。最初はエリートコースへの栄転に喜んでいた主人公は、徐々に調達の不条理に気が付きだす。一部の業者に対して、不適切な厚遇がなされていたのである。 軍人、特に将校の世界は、とても居心地がいいらしい。家族(シック:食口と書く)という言葉で表現されるほど、細やかな人間関係が存在するという。そんな中で、軍が行っていた不条理(この場合は戦闘機の部品納入に関する一部業者の厚遇)により、部品の不具合で戦闘機が墜落し、パイロットが死亡する。不条理を告発しようとした主人公は、逆に軍に訴えられそうになる。心あるジャーナリストと組むことで、告発に成功する。 私がこの映画を観たときには、「渋い、硬派な映画だが、映画としてあまり盛り上がらないのではないか」と逆に心配するほどだった。だが、エンディングをみて衝撃を受けた。 映画が実際の事件を基にしていることは分かっていたが、こうした軍の不良品納品が横行することで、どうもセウォル号の沈没の救助に向かうはずだった軍艦が、動作不良で出動できなかったらしいという実際のTV報道がエンディングに挿入されているのである。つまり、こうした軍の不条理(韓国語ではピリ(非理、と書く))によって、あのセウォル号の子供たちが少しでも救えたかも知れなかったということがエンディングで明らかになるのだ。 社会の不正義は、必ず克服されるべきである。克服されなければ、罪のない命が失われるのである。そういう強烈なメッセージを感じ取れる作品であった。 冒頭の国防部の武器調達システムへのブロックチェーンの導入というのは、この『一級機密』で扱われた不正義を考えると深い意味があるように思われる。というのも、ブロックチェーンの最大の特徴として、一度承認された記録は事実上改竄できないということがあるのだ。つまり、武器の調達において、しかるべき入札が行われているかどうかを透明性を持って管理できるということでもある。ブロックチェーンの強みと、韓国社会における正義の追求という2つの要素がうまく融合する案件になれば面白いと思う。 韓国大手銀行の一つである新韓銀行は、医者向けローン商品をブロックチェーンを活用して運用していた。「ドクターローン」というサービスだが、もともと新韓銀行はアメリカのプログラマであるビタリック・ブテリン氏が中心となって開発されたイーサリアムというブロックチェーンを利用していた。 しかし、新韓銀行は今後「ドクターローン」をクレイトンという韓国発のブロックチェーン基盤に切り替えることを発表した。クレイトンは韓国大手であるカカオの子会社が開発したブロックチェーンである。新韓銀行もクレイトンも、韓国国内企業でブロックチェーンを活用するプレーヤーとしては最大級の存在である。今回の協業は、韓国ブロックチェーンの歴史の中でも特筆されるべき出来事なのかもしれない。 ちなみに、新韓銀行の「ドクターローン」は、医師を対象にしたローンの貸し出し管理アプリで、医師資格(国家資格)情報の確認プロセスをブロックチェーンを活用することで円滑化している。

「虚業」と「実業」が融合しつつあるという話:IT企業が製造業に本格進出する時代を考える

英『エコノミスト』誌の記事を読んで考え込んでしまった。「もしかしたら、バリュー(価値株)の時代が戻ってきたのかも知れない」という内容である。 ファイナンスの教科書のような丁寧な記事だが、個人的に一番勉強になったのははっきりとテック株(いわゆるGAFA等のIT企業銘柄)が過大評価されていると認識されていることである。テック企業の無形資産は空前の好況を(金融市場に)もたらしたが、根本的なところでは価値分析の意義は失われていない。もちろん、バリュー投資を提唱したグラハムらの活躍した20世紀初頭とは比較にならないほど現在の金融市場は複雑化したし、そのアップデートは誰かがしなければならないのだろう。 さて、こうしてIT企業の株価がうなぎ上りに上がり続けてきた金融市場だが、製造業の世界では、ITも金融も「虚業」と捉える暗黙の了解があるように感じる。汗をかいて物理的なモノを生み出すのが実業であり、「データをピコピコいじる」のは実業ではないのだ、という自負のようなものがあったのだと思う。上述の『エコノミスト』の表現を借用するなら「無形資産」をあまり評価していない風潮とも言える。 しかしながら、2020年の産業界の動きを振り返ってみると、その「虚業」が「実業」の世界に襲い掛かってくる予兆があちこちに見られるのである。それも、天文学的な資金を惜しげもなく投下して、である。 ビッグデータという言葉がある。スマホや、もっと小さな情報機器が社会の隅々にまでいきわたると、人間や社会の動きを逐一データとして拾ってくることにより、巨視的な予測が可能になるという状態を表現した言葉である。このビッグデータは、20世紀の「石油」に喩えられるほど貴重な資産であり、莫大な収益をもたらすと予想されている。ビッグデータは、グーグルやフェイスブックのようなIT企業が、アルゴリズムを駆使してすでに収集に成功している。というより、これら企業のビジネスモデルを世の中の人が必死で分析した結果、「データはカネになる」と気づいて命名したのがビッグデータなのかも知れない。 経済的に見ると、データ市場は400兆円ほどの規模を持つとも言われている。この400兆円市場をめぐって、半導体メーカーたちが巨額の企業合併を始めているのだ。AMDがザイリンクスを買収し、ADIがマキシムを買収し、SKハイニックスがインテルのメモリ事業を買収する。それだけではない。「虚業」であるはずのIT企業たちも、自ら半導体を製造すべく、開発を進めていると言われている。アップルがCPUを開発し、グーグルがサーバー向け半導体を開発するなど、IT企業は既に「データをピコピコいじっている」だけの存在ではなくなりつつある。 明らかに、世界的な規模で産業界に変化が起きつつある。IT企業はデータビジネスももちろんだが製造業としての顔を持つようになるだろう。一方で製造業も、データを売るための装置を開発するようになり、両社の境界は曖昧になっていくのかもしれない。冒頭の『エコノミスト』の話に戻ると、IT企業などのテック系株が「一段落」した後には、製造業系の企業が再評価されるのかも知れない。もしかしたら、中長期的にはITや製造業といった境目が無くなる分野も登場する可能性さえあると思う。 (参考)※すべて2020年12月12日アクセス The Economist, “Value investing is struggling to remain relevant” Nov 14th 2020 edition, https://www.economist.com/briefing/2020/11/14/value-investing-is-struggling-to-remain-relevant 「データ時代の盟主は誰に 半導体で吹き荒れる再編の嵐」『日本経済新聞』2020年11月20日 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66442640Z11C20A1X11000