私は韓国に住む日本人である。妻も韓国人だし、韓国人の友人も多い。古い友人になるともう15年近くつきあっている。
1980年代生まれの私の世代は、いわゆるドラゴンボール世代よりは少し下である。が、一般教養としてドラゴンボールをはじめとするマンガやアニメの知識は持っている。それは韓国でも同じで、私と同世代の友人たちは日本のマンガに詳しい人が多かった。ドラゴンボール、スラムダンク、幽遊白書、るろうに剣心などの少年ジャンプ系統が多かった気がする。NARUTO、ワンピース、その他たくさんの作品が共通の話題としてあった。
たいていの作品は名前を聞けば分かるものだったが、中には全く分からないものもあった。
「お前は『ミスター寿司王(미스터 초밥왕)』を知っているか?」
ある友人の発言である。私はそういわれてもさっぱり分からなかった。
ミスター寿司王とは『将太の寿司』という日本マンガのことだったのだ。前述の例えばドラゴンボールのように、人口に膾炙しているマンガほどの知名度ではないと思うのだが(関係者の方すいません…)、韓国では『将太の寿司』を日本人が知らないなんてあり得ないと皆が断言するほど有名な作品なのである。日本と言えば寿司、寿司と言えば『将太の寿司』ということなのだろうか。
ある種のカルチャーは、自国よりも外国でメジャーになるというケースがあるらしい。ヨン様ことペ・ヨンジュン氏が、韓国よりも日本で人気が出たように。『将太の寿司』はその逆パターンだと言えるだろうか。
メディアではないが、料理でも似た現象がある。韓国で日本料理と言えばラーメンや牛丼といったいわゆるB級料理が人気である。日本で人気の韓国料理の、例えばビビンバやスンドゥブチゲは、韓国ではブンシクチプといって、気楽に食べれるこれまたB級料理に近い存在だと思う。
誓って言うが私は『将太の寿司』が他のマンガに比べて劣っているとか、B級であるとか言う意図は全くない。まだ読んだことがないので、楽しみにしているくらいである。ここで言いたいのは、ホームグラウンドを離れた場所で、コンテンツが受容されていくそのダイナミズムが面白いということなのだ。私も、異国の地に暮らす日本人として、祖国の食の魅力をこの国の人たちに伝えてくれている『将太の寿司』に感謝しつつ、作品を読んでみたいと思う。