先日、ソウルの日韓異業種交流会で、初めて登壇する側に回った。
タイトルは「韓国から見た半導体サプライチェーン」。実はこのタイトル、事務局にせかされて先に出したものだ。韓国にいるから「韓国から見た」。それだけの理由だった。
ところが準備をしながら、気づいたことがある。僕がソウルから見ているのは、韓国の半導体そのものじゃない。日本の工場と、世界のどこかにある在庫が、締切までに間に合うかどうか――僕が毎日見ているのは、それだった。
今日はその話を書きたい。
僕の仕事
簡単に自己紹介すると、僕はソウルを拠点に、日本の製造業向けに半導体を売っている。日本の会社で9年働いて、ソウルに来てもうすぐ9年になる。
扱っているのは、いわゆるオープンマーケット(独立系流通市場)の半導体だ。聞き慣れない言葉だと思うので一言でいうと、メーカーの正規ルートでは必要な時期に手に入らない部品を、世界中の流通在庫から探して届ける仕事である。
平時は出番が少ない。安定供給は正規代理店の領域で、僕らは補完であって代替ではない。出番が来るのは、どこかで何かが「切れた」ときだ。
なぜ、たった一枚のICが工場を止めるのか
ここが今日いちばん伝えたいところだ。
製品というのは、部品が99%揃っていても完成しない。必須の部品が一つ欠ければ、完成品はゼロ台。そして半導体は、現代の電気製品のほぼすべてに入っている。
「足りないなら作ればいい」と思うかもしれない。ところが、これができない。半導体工場の建設・立ち上げは年単位の仕事だし、増産には製造装置と材料が要る。その装置にも長い納期がある。しかも作れたとしても、顧客の品質認証を通るまでは売れない。車載や産業用は特に厳格だ。
つまり、不足と増産の間には年単位の時差がある。逼迫期には、納期50週超――ほぼ1年待ちの部品も実際にあった。今日発注して、届くのは来年の今ごろ、という世界である。
半導体は、一つの国・一つの会社では作れない。メモリ、製造装置、材料、ファウンドリ、設計。世界中の分業でできている。どこか一つが切れると、末端では思いもよらないものが止まる。
ニュースが、電話に現れる
2020年10月、宮崎県のある半導体工場で火災があった。音響機器などに使われるICを作っていた工場だ。
僕が見たのは、火災現場ではない。翌週の、自分の電話だった。普段は動かない型番への問い合わせが、世界中から一斉に来た。楽器、オーディオ、カーナビ――「音の出るもの」のメーカーが、いっせいに代替品を探し始めたのだ。大手楽器メーカーは約60億円の減収要因になったと報じられた。
ニュースの見出しが、数日遅れで自分の商流に伝わってくる。この仕事をしていると、それを何度も経験する。
残り21日
一つ、実際にあった案件の話をしたい(顧客が特定されないよう、詳細は丸めている)。
ある日、日本の自動車部品メーカーから連絡が来た。車載部品のラインが、あと21日で止まるという。原因は単価千円ほどの、ありふれたIC。設計と顧客の承認に組み込まれていて、すぐには外せない。メーカーに納期を聞くと、回答は「未定」。つまり正規ルートでは、いつ届くか分からない。
止まれば数千万円規模の影響が出る。千円のICで、である。部品の値段と、止まったときの損失は、まったく比例しない。
僕らは世界のネットワークに一斉に照会をかけた。2日後、海外の流通在庫に必要量が見つかった。ただし、そのまま使える在庫ではなかった。通常より広い検査が必要な品物で、うちの品質チームが約1週間かけて検査し、最終的には顧客の品質部門が採用の可否を判断した。
その間も市場は待ってくれない。売り手市場では、在庫は先に決めた者のものだ。顧客の決裁期限は3日。決めたのは役員だった。
結果を正直に書くと、全部は救えなかった。一部のラインは止まった。それでも確保した部品が約1か月をつなぎ、その間に次の手を打つ時間が生まれた。
オープンマーケットにできること、できないこと
この仕事を美化するつもりはない。だから、できることとできないことを正直に書いておく。
市場在庫が短くできるのは、主に「作って届くまでの時間」だ。設計変更や、顧客の承認プロセスまで自動的に縮むわけではない。検査と承認という時間は、最後まで消えない。ここを削れば、速さは危険に変わる。検査も100%の保証ではなく、リスクを一段ずつ下げる作業だ。
それでも、正規ルートが間に合わないときに別の選択肢を作れることがある。選択肢があれば、会社は「待つか、代えるか」を選べる。あの案件で僕らが届けたのは、部品というより、決めるための時間だったと思っている。
あなたの会社の「小さな急所」は何ですか
発表の後のグループ討議で、面白いことが起きた。半導体と関係ない業界の人たちが、次々に自分の話を始めたのだ。「うちは、ある担当者が休むと業務が止まる」「うちは一社依存の仕入先が急所だ」「うちの問題は、誰も決められないことだ」。
そう、この話は半導体の話ではない。どの会社にも、一つ欠けると全体が止まる何かがある。部品、人、システム、取引先、許認可。
だから最後に、あの日会場に投げた問いを、ここにも置いておきたい。
あなたの会社で、一つ欠けると止まるものは何ですか。それが今日欠けたら、何日持ちますか。代わりの手はありますか。そして――誰が、いつまでに決めますか。
危機が来てから考えると、答えはすべて「時間との競争」になる。危機の前なら、ただの宿題で済む。
ソウルの仕事机から見える半導体の世界は、だいたいこんな感じである。またこの話の続きは、どこかの交流会か、この場末のブログで。