【読書】ジム・ロジャーズ『これから5年の韓半島投資シナリオ』【日本語未訳】

この記事ではジム・ロジャーズ『これから5年の韓半島投資シナリオ』(日本語訳無し)の内容のまとめと感想を紹介したい。
ジム・ロジャーズ氏はヘッジファンドでの伝説的なリターンや、中国の台頭を予言したこと、シンガポールに移住したこと、最近では北朝鮮の経済発展に楽観的であること等、何かと話題の多い人物である。日本語での刊行物も数多く存在する。
この記事で紹介する本書は、今のところ(2020年3月現在)韓国語版しか入手できず、日本語版はおろか英語版も存在しない。にもかかわらず、特に日本人にとっては衝撃的な予測が含まれることから、著作権を尊重しつつ私の能力の及ぶ範囲で、主に本書の構成に沿いながらその内容を紹介したい。
なお、タイトルにある「韓半島」という単語は英語ではKorean Peninsulaとなり、日本語では慣習的に「朝鮮半島」と訳されるが、本記事内では原著の表記を尊重し「韓半島」で統一した。

http://www.yes24.com/Product/Goods/82741718

本書について

基本情報

짐 로저스, 백우진 “짐 로저스 앞으로 5년 한반도 투자 시나리오”, 비즈니스북스, 2019년

ジム・ロジャーズ、ぺ・ウジン著
『ジム・ロジャーズ これから5年の韓半島投資シナリオ』
ビジネスブックス、2019年
(※ただし、日本語訳は2020年3月2日時点では出ていない。)

Jim Rogers and Woo Jin Baek,
“Jim Rogers’ Big Picture:
Why Han Ban Do is Going to be the Most Exciting Place in the World for the Next 10-20 Years”
The Business Books and Co., Ltd., Seoul, 2019
(※英語版も2020年3月2日時点では確認できない。)

筆者ジム・ロジャーズ氏について

ジム・ロジャーズ(Jim Rogers)氏はアメリカ出身の投資家で、ロジャーズ・ホールディングス会長である。1973年、ジョージ・ソロス(George Soros)とともに立ち上げたクォンタム・ファンド(Quantum Fund)は10年間で4,200%という驚異的な利益率を誇る、伝説的なヘッジファンドである。クォンタム・ファンド引退後、世界各地をオートバイなどに乗って自分で見聞する、「冒険投資家」スタイルを確立し主に新興国を中心に投資を行う。特に中国の台頭に早くから言及し、自分の娘に中国語教育を施すためにシンガポールに移住してしまうほど中国経済の将来に確信を持っていることでも知られる。

共著者ペク・ウジン氏について

韓国随一の名門大学であるソウル大学及び大学院で経済学を専攻したのち、『東亜日報』等で経済担当、金大中(キム・デジュン)政権で経済政策の広報担当を歴任した経済・株式市場を得意とするジャーナリスト。現在は著述家、翻訳家としても活躍中。

この本の形式と出版状況について

(以下の内容は2020年3月2日現在のものである)
この本の出版形式および状況について簡単に説明したい。韓国で出版された本の裏表紙によると、この本の原題は”Jim Rogers’ Big Picture:
Why Han Ban Do is Going to be the Most Exciting Place in the World for the Next 10-20 Years”という英語タイトルとなっている。しかし、インターネットを検索しても同様のタイトルの英語書籍を見つけることは出来なかった。本書は経済を得意とするジャーナリストのペク・ウジン氏との共著という形を取っており、本論をジム・ロジャーズ氏が、韓国・北朝鮮の社会経済関連のコラムをペク・ウジン氏が担当している。したがって、ジム・ロジャーズ氏が英語で執筆した部分は刊行物としては表れていない模様である。

本書の目次

第1章 決して揺らぐことのない6つの投資原則
    ・危機に出くわさない投資は存在しない
    ・歴史のリズムに合わせてストリートで答えを探す
    ・他人の言葉は全て間違っている
    ・好材料を得たら何もするな
    ・疑問を招かない投資は必ず失敗する
    ・情熱を持つことに、お金は必ずついてくる

第2章 世界唯一の分断国家に注目する理由
    
・ミャンマー、ベトナム、中国に続き…歴史が示す投資先「北朝鮮」
    ・2回の訪問で全く違う平壌を目にする
     【韓半島レポート】現在の北朝鮮市場の状況は?
    ・逆戻りできない市場経済の動き
     【韓半島レポート】北朝鮮政府が抱えるジレンマ
    ・金、銀、鉄道資源…資本が流れ込む土地
     【韓半島レポート】北朝鮮のドル市場の可能性はどのくらいか
    ・韓国に積極的に投資をしない理由
    ・韓国株式市場と投資の対価と私

第3章 2020‐2040 韓半島経済統合シナリオ
    
・2020年末、南北の交流が始まる
     【韓半島レポート】ドイツが羨む開城(ケソン)公団10年の実験
    ・南北が解決すべき格差1:人口・経済
    ・南北が解決すべき格差2:産業
     【韓半島レポート】北朝鮮経済の血脈「チャンマダン」に注目せよ
    ・北の核問題、長期化の可能性あり
     【韓半島レポート】北朝鮮は果たして核を放棄するだろうか
    ・経済統合された韓半島を警戒する国家、日本

第4章 経済統合された韓半島投資の未来
    ・韓半島の上に描かれる3つの経済ベルト

     【韓半島レポート】羅津(ラジン)・琿春・ハサンの三角地帯が核心だ
    ・世界的観光地に生まれ変わる非武装地帯と東海岸
    ・南北経済協力の中心、「資源」に注目せよ
     【韓半島レポート】韓国企業が心配すべき北朝鮮資源開発問題
    ・韓半島の平和を期待する東北アジアエネルギー協力プロジェクト
     【韓半島レポート】東北アジア経済協力の中心、「エネルギー」
    ・ユーラシアを揺るがす新しい鉄道と航路時代の始まり
     【韓半島レポート】文在寅大統領の構想「東アジア鉄道共同体」

第5章 これから5年、新グローバル投資の地平
    ・ブル・マーケット(強気市場)が終わりベア・マーケット(弱気市場)が来る
    ・トランプが読んだ保護貿易主義の暗雲
    ・沈みゆく日本に警告する
    ・中国の露骨な大国崛起とその後
    ・ロシアに対する楽観論に転向した理由

本書の内容(各章別)

第1章 決して揺らぐことのない6つの投資原則
    ・危機に出くわさない投資は存在しない
    ・歴史のリズムに合わせてストリートで答えを探す
    ・他人の言葉は全て間違っている
    ・好材料を得たら何もするな
    ・疑問を招かない投資は必ず失敗する
    ・情熱を持つことに、お金は必ずついてくる

要約
徹底的な分析を通してのみ機会をつかむことができる。マクロな視点を持っていればこそ、オイルショックの中でも収益を得ることができた。
歴史の答えは、常にストリートに潜んでいる。数回にわたりオートバイで世界一周を行った理由だ。
クオンタム・ファンドや、その後の投資人生で何度も大きな節目に立ち会ってきた。損もしたこともあるが、そういう時は他人の意見に振り回されたときだった。自分の意見を貫くこと、そのための徹底的な調査が何よりも重要だ。
投資は忍耐である。失敗も恐ろしいが、成功したときに下手に動くと逆に転落が待っている。何か好材料を得たり成功したときには、調子に乗って不用意な投資をするよりはビーチにでも行って何もしないほうがむしろ安全だ。
自分がよく知り、しっかり判断することができる分野にこそ投資をするべきだ。

第2章 世界唯一の分断国家に注目する理由
    ・ミャンマー、ベトナム、中国に続き…歴史が示す投資先「北朝鮮」
     閉ざされた扉が開く瞬間を決して逃すな
    ・2回の訪問で全く違う平壌を目にする
     2007年金正日の北朝鮮、2014年金正恩の北朝鮮
     【韓半島レポート】現在の北朝鮮市場の状況は?
      7・1措置は計画経済の失敗を認めるもの/金融市場と労働市場も共に活性化
    ・逆戻りできない市場経済の動き
     北朝鮮の経済特区とチャンマダンに注目せよ/市場経済の円滑な軟着陸を望む
     【韓半島レポート】北朝鮮政府が抱えるジレンマ
      貨幣改革等市場に対する反撃の失敗/市場化は既に広く深く根をはっている
    ・金、銀、鉄道資源…資本が流れ込む土地
     羅先(ナソン)経済特区で目撃された巨大な変化の兆候/機会の安値買いを狙う国々 
     【韓半島レポート】北朝鮮のドル市場の可能性はどのくらいか
     トンジュがリードする市場化が全方向に拡散する/ドル化の3つの要因:チャンマダン、物価、貨幣改革
    ・韓国に積極的に投資をしない理由
     韓国経済が抱える問題/経済危機を抜け出せる悲壮なカード
    ・韓国株式市場と投資の大家と私
     ピーター・リンチ、韓国に早く来すぎた投資家/テンプルトン、韓国通貨危機の時に来た投資家/ウォーレン・バフェット、低評価の時に来た投資家

要約
2018年から本格化した南北融和の流れは、1972年に米ニクソン大統領が中国の毛沢東主席と会談し始まった国交正常化、改革開放の流れに匹敵する歴史的な動きである。投資家であれば、閉ざされていたドアが開く瞬間を決して逃すべきではない。
平壌には2007年と2014年の二回訪問した。とても閉鎖的だった2007年の印象とは全く異なり、2014年には資本主義の息吹を社会のいたるところで感じることができた。数多くの自由貿易地区、観光客向けの自転車ツアー、サービスの改善された飲食店などが印象的だ。羅先(ラソン)経済特区でのチャンマダン(マーケット)での市場の活況も特筆に値する。
北朝鮮の経済特区とチャンマダンには特に注目すべきである。2014年の訪問時、北朝鮮の住民たちはチャンマダンでの商取引を通じて利益を上げているのは紛れもない事実だった。
北朝鮮の魅力の一つは、その土地そのものだ。豊富な自然資源に支えられた北朝鮮の金貨や銀貨は投資対象になるかもしれない。また、ロシアや中国も虎視眈々と狙う天然資源の存在も大きい。
実は韓国には投資先としての魅力は感じない。少子高齢化の問題を抱えている。しかし、南北の経済統合に大きな機会があると考えている。
振り返ってみれば、数多くの米国の投資の大家たちが韓国に注目してきた。ピーター・リンチは1960年代に韓国に注目したので少し早すぎたかもしれない。テンプルトンはIMF危機後に韓国に注目した。ウォーレン・バフェットは韓国株が低評価されていた2000年代前半にポスコなどの株に投資し、利益を上げている。

第3章 2020‐2040 韓半島経済統合シナリオ
    ・2020年末、南北の交流が始まる
     壁が崩れる瞬間、巨大な資本が流れ込む
     【韓半島レポート】ドイツが羨む開城(ケソン)公団10年の実験
     中国や韓国よりも生産効率、品質が優秀/入居者の78%が未来を楽観、69%が拡大の意向/開城(ケソン)が再びドアを開く日
    ・南北が解決すべき格差1:人口・経済
     南北朝鮮の人口とGDP格差が意味するもの/人口8千万の経済大国、世界2位に急浮上する朝鮮半島
    ・南北が解決すべき格差2:産業
     北朝鮮産業分野の潜在的力量と可能性/北朝鮮貿易の活路を開く韓国
     【韓半島レポート】北朝鮮経済の血脈「チャンマダン」に注目せよ
     総合市場中心に関連産業が発達/食品加工業は中国産をすぐに圧倒/
    ・北の核問題、長期化の可能性あり
     駐韓米軍の動きはどうなる/老練な交渉専門家と鋭敏な若い指導者の取引
     【韓半島レポート】北朝鮮は果たして核を放棄するだろうか
     北朝鮮の核問題、キムジョンウンだけでは解決できない/米国は全面的かつ検証可能な非核化を要求/「核を放棄すればフセインのように没落する」と考える北朝鮮/北朝鮮の核問題、4つの選択肢
    ・経済統合された韓半島を警戒する国家、日本
     「安倍よ、狂った真似をやめて辞任せよ」と言った理由/日本を越える経済統合された韓半島の到来を直視すべき

要約
南北の対立が終結した際には、莫大な額の軍事費負担が解消されることが確実である。その分、経済協力に回すことができる。もちろん、対北投資への規制動向については注視しなければならない。
南北が解消すべき格差もある。まずは人口や経済だ。北の人口は南の半分ほどだ。GDPベースでは北は南の20分の1ほどしかない(韓国銀行、2016年基準)。しかし南北経済協力後の世界では、人口は南北合わせて8,000万人、GDPも日本の規模を軽く超えるだろう。
また、南北が解消すべき格差の他の例としては産業がある。北の産業はサービス業(32%)、農林漁業(23%)、製造業(20%)、鉱業(12%)の順だが、特に農業の生産性は低い。経済協力に伴い、生産性は飛躍的に向上するだろう。また、観光やインフラ産業は特に発展が期待できる。数十年世界から孤立していた国の様子が知りたいのは人の性だし、現在の劣悪なインフラを改善するための需要は大きいだろう。
北朝鮮による核開発問題は長期化する可能性がある。核開発問題を考える時には、駐韓米軍という変数を考える必要がある。トランプ大統領と金正恩総書記は会談を繰り返しているが、楽観的になるべきではない。
韓半島に歴史的因縁があり、南北融和の動きを恐々として見ているのが日本だ。私は日本びいきではあるが安倍総理による経済政策は狂っていると感じる。世界経済は新たな成長エンジンを渇望しており、統一された韓半島への動きは世界の支持を集めるだろう。北朝鮮の地に埋まる豊富な天然資源や廉価な労働力は魅力的だ。また、次の世紀に世界経済を動かすことになる東アジア市場に世界のあらゆる資本が集まるだろう。その流れの中で日本にも数多くの機会が生まれるはずだ。日本は経済統合された韓半島の到来を避けようとせず、今からでも新しい時代の変化に対応できるよう準備すべきだ。

第4章 経済統合された韓半島投資の未来
    ・韓半島の上に描かれる3つの経済ベルト
     経済統合された韓半島の上に描かれる3つの核心ベルト
     【韓半島レポート】羅津(ラジン)・琿春・ハサンの三角地帯が核心だ
     羅津(ラジン)―ハサン事業拡大は文在寅政府にかかっている
    ・世界的観光地に生まれ変わる非武装地帯と東海岸
     DMZは平和・エコロジー観光地として注目を集める/期待できる東海岸の驚くべき変化
    ・南北経済協力の中心、「資源」に注目せよ
     南北の組み合わせに最も適した経済協力分野「資源」
     【韓半島レポート】韓国企業が心配すべき北朝鮮資源開発問題
     韓国企業が逃してはならない「レアメタル」/グラファイト江山の開発を通して観る事業推進の難関/南北はどのように収益を分配すべきか
    ・韓半島の平和を期待する東北アジアエネルギー協力プロジェクト
     エネルギーを中心に関係強化に至った中国とロシア/南北そしてロシアの3か国を通るガスパイプラインプロジェクトの未来
     【韓半島レポート】東北アジア経済協力の中心、「エネルギー」
     韓国ーロシアガスパイプライン、2004年に初合意/韓中ロシアのガスパイプライン等の代案もある
    ・ユーラシアを揺るがす新しい鉄道と航路時代の始まり
     大陸横断鉄道と北極航路が描き出す新たな投資の地平/北極航路を利用する諸国家/韓国造船社、第2次ヤマルプロジェクトの受注に関心
     【韓半島レポート】文在寅大統領の構想「東アジア鉄道共同体」
     韓国、国際鉄道協力機構に正会員加入/新北方政策にロシア、東北三省、モンゴルなど/鉄道運送は海運・航空運送とは違う競争力を持つ/超高速貨物、TSRなら釜山(プサン)からモスクワまで27時間

要約
韓半島の上に3つの経済ベルトが生まれることになる。
1.西海岸の産業、物流、交通ベルト:開城公団の拡大・開発から、仁川、ソウル、開城、平壌、新義州を通り北京まで開発
2.東海岸のエネルギー・資源ベルト:韓国、北朝鮮、ロシアをつなぐ。また、東海岸は観光地としても発展するポテンシャルを秘めている。
3.DMZ(非武装地帯)の環境・観光ベルト:エコロジー・平和安保観光地区、文化交流センター

北朝鮮の経済的開発対象の鉱物・資源には以下のものがある。
金属鉱物(19種類):金・銀・銅・鉄・鉛・亜鉛・タングステン・モリブデン・チタン・マンガン・クローム・ビスマス・カドミウム・ニッケル・アンチモン・コバルト・ニオブ・セリウム・イトリウム
非金属鉱物(20種類):マグネサイト・石灰石・鱗狀黑鉛・滑石・リン鉱石・蛍石・重晶石・蠟石・長石・雲母・ネフライト・硅石・二酸化ケイ素・サーペンティン・カオリナイト・ダイアマイト・アスベスト・アンダルサイト・ウラストナイト・水晶
エネルギー資源(4種類):無煙炭・有煙炭・石油・ウラニウム

鉄道の開発はただ単に南北が直接結ばれる以上のインパクトがある。南部の釜山から中国やロシアを通り、シベリアを経由してモスクワや遥かヨーロッパまで陸路による輸送が可能になる。
また、北極航路のインパクトも大きい。釜山からサハリン、ベーリング海峡を通り北極を横断しヨーロッパのデンマークまで船で行けるようになれば、朝鮮半島は今のシンガポールのような地理的要所となる。

第5章 これから5年、新グローバル投資の地平
    ・ブル・マーケット(強気市場)が終わりベア・マーケット(弱気市場)が来る
     2020年貿易戦争と為替戦争が呼び寄せるベア・マーケット/手遅れになる前に投資安全地帯に向かえ
    ・トランプが呼び寄せた保護貿易主義の暗雲
     トランプが扉を開き、憂鬱な予言が現実に/近隣窮乏化政策は今回も失敗する
    ・沈みゆく日本に警告する
     日本政府の介入が招くバブルの呪縛/日本経済の3つの危険要素/今の景気浮上策は長続きしない
    ・中国の露骨な大国崛起とその後
     中国指導部に技術専攻出身者がひしめく理由/千人計画・万人計画・経済躍進の原動力/止められない大国崛起の始まり/アメリカが貿易戦争を始めた理由/中国に埋め込まれたリスク、低出産率と増大する負債
    ・ロシアに対する楽観論に転向した理由
     ロシアに吹く変化の風/ロシアが描くポジティブな経済指標


要約
早ければ2020年の初頭に世界経済に赤信号が点滅するだろう。ブル・マーケット(強気市場)が終わりベア・マーケット(弱気市場)が始まる。心配なのは多くの国で政府負債が大きいことだ。それは金融危機を増強させることを意味する。投資家であれば、今からでも安全資産に逃避すべきだ。
トランプ大統領は中国などを相手に貿易戦争を始めてしまった。これは世界各国で保護貿易政策を誘発するだろうが、近隣窮乏化政策は必ず失敗するのが歴史の教訓である。
日本では日銀が株式市場を買い支えている。しかしこの政策は長続きできないだろう。日本は自らが抱える構造的な問題の解決に力を注ぐべきだ。生産可能人口の減少・排他的な社会・政府負債は深刻な問題だ。移民も受け入れず、人口が減るばかりの国で借金が増えるなら30年後どうなっているだろうか。アベノミクスは未来の問題を更に深刻にしている。
中国は、建国以降指導部に理工系の人材を大量に登用してきた。辛酸をなめた近代史の記憶があるからだが、その成果もあって現在中国の特許出願数は世界一である。また、海外で学んだ優秀な学者を帰国させ、産業発展に寄与させる通称「百人計画」、その拡大版の「千人計画」の力も大きい。覇権国である米国は、中国の発展を警戒している。特に、国家安保に直結する5G技術に関連して華為(Huawei)を攻撃するのは、その一環である。一方、中国経済にも内在する弱点がある。少子高齢化と負債である。
ロシアについては、もともと悲観的だった。冷戦時代から投資先を探してきたが、つい最近になるまではうまくいくと思わなかった。しかし、変化の兆しが表れている。特に経済指標は好調であり、多くの経済評論家が悲観している今はむしろ投資の好機である。

以上が本書の内容の要約である。

基本的にジム・ロジャーズ氏は現地を見て判断するタイプということで、氏が2回北朝鮮に足を運び、自ら見聞した内容を基に北朝鮮、韓半島の経済成長を予測していることが分かる。

注意したいのは、本書の中で「経済統合された韓半島」という言葉は使われていても、「統一コリア」という言葉は使われていないということだ。「経済統合された韓半島」という言葉には、「政治的にはどうなるか分からないが、経済的には南北が統一される」という微妙なニュアンスが含まれることに留意されたい。ジム・ロジャーズ氏は韓半島の政治的未来は、不透明であると認めている。核開発問題についても、特に駐韓米軍がネックになり長期化すると述べており、政治的にはかなり慎重であると言える。

それにも関わらず経済面で楽観しているのは、金正恩という新しい世代の指導者を戴くことで経済政策を完全に転換したことをジム・ロジャーズ氏が確信しているからだと思われる。本書を読んでいても、見聞内容やデータからその確信はひしひしと伝わってくる。

なお、参考までに本書と関係のある日本語書籍を紹介して本記事の結びとしたい。

お金の流れで読む 日本と世界の未来 世界的投資家は予見する (PHP新書) Kindle版

日本への警告 米中朝鮮半島の激変から人とお金の動きを見抜く (講談社+α新書) Kindle版

【韓国ドラマ・映画】コロナで家から出れないので最近観た作品を語っていく【ネタバレあり】

【注意!】【ネタバレあり!】
この記事には!!!ネタバレ!!!が含まれます!
【注意!】【ネタバレあり!】

こんにちは。最近は韓国でもコロナウイルスのせいで大騒ぎ…外出も気軽にできなくなって大変です。

不要不急の外出を避けて家で出来る娯楽の一つが、Netflix(ネットフリックス)などで動画を楽しむことですよね。私も最近は家にいる時はネットフリックスばかり観ています!

そこで最近観て面白かった映画やドラマを紹介したいと思います。なお、この記事はいわゆるネタバレが含まれます。作品をまだご覧になっておらず、結末を知ってしまうのは困るという方は作品を観てから読んでくださいね~

今回おすすめする作品は、以下の3つです。

おすすめ その1:『FLU 運命の36時間(“감기”)

コロナで騒然とした今だからこそ!の映画です。謎の感染症が韓国に広まりだす。きっかけは、ある事件なのですが、チャンヒョク演じる主人公のジグ(救助隊員)が映画の冒頭で医者のイネ(女優スエが演じる)を救助する所から始まります。

医者であるイネと救助隊員のジグは、ストーリーが進むにつれて意外なところで再会することになります。

韓国に入ってきた謎の感染症は致死率100%という恐ろしい病気なのですが、これがブンダンというソウル近郊の街に広がってしまいます。ちなみに、ブンダンは韓国を代表するIT企業が集まっていることでも知られます。(Naver/ネイバーなど)

事態を重く見た韓国政府は、軍隊を動員してブンダンを閉鎖。全住民を隔離します。主人公イネも、娘のミルと一緒にこの中に取り残されてしまいます。

ところがこの隔離キャンプがまたとんでもない施設で、隔離した感染者を治療もせず(まあ治療法もないのですが)、亡くなった人も亡くなりそうな人(=亡くなっていない人)も巨大な穴に埋めるだけという地獄。その実態に気が付いた感染していない住民たちは怒りに震え、軍隊の封鎖に立ち向かうことになります。ほぼ丸腰の市民と、完全武装の特殊部隊の軍人たち。この対立構図は明らかに韓国民主化運動のターニングポイントの一つである光州事件を意識していると思いますが、絶体絶命の市民たちを救ったのは医者であるイネが、娘のミル(感染していた…)に施した抗体と、それを知った大統領の決断でした。救助隊員のジグは何してたんだよという声が聞こえてきそうですが、ジグはジグでミルを助けたり色々忙しい。

結局、ミルの血から抗体を作ろうという大統領の決断と行動により、主人公もブンダンの市民も救われ、ハッピーエンドとなります。

この映画を観た感想なのですが、うーん。。。ちょっと今の時期に観るには重すぎました(笑)

韓国はかなり手際よく今回のコロナウイルスに対処しているのですが、その背景にはSARSやMERSなどの感染症に苦しめられた反省があるということは既に色々な人が指摘しています。映画が作られたのは2013年ということで、SARSの流行から10年ほど後です。

なのでもちろん感染症との闘いというテーマも含まれているのですが、私はどちらかというと前述した「武装した軍隊 VS. 丸腰の市民」という、民主化運動を彷彿とさせる構図が印象的でした。

国家の側から見れば、ブンダンを封鎖しないと全国に感染が広まってしまう。一方市民からしてみればそんなことは関係なく自分の命が助かりたい。そういう双方の利害がぶつかり合うわけですが、結局それは舞台設定以上のものではなく、製作陣が本当に描きたかったのはやはり国家とは何かという問いかけだと思いました。ストーリーの中で大統領は終始、抗体を確保してブンダンの封鎖をすぐにでも解除する考えを持っていたのに対し、韓国軍、韓国軍の意を汲んだ首相、そして駐韓米軍の司令官はブンダンの見殺しを強硬に主張します。ここには朝鮮戦争以来の韓国軍と駐韓米軍の間の「戦時作戦統制権問題」というのも絡んでいます(朝鮮半島でまた戦争が起きた場合、米韓のリーダーシップは米軍がとる、という問題)。ブンダンを見殺しにして韓国を助けたい強硬派も、実は韓国を見殺しにして世界を助けたいと考える米軍の影から逃れられないという構図。

最終的にはハッピーエンドとなるわけですが、国際政治とは、国家とは、軍隊とは、市民の権利とは、という重い主題が詰まっている作品でした!

おすすめ その2:『愛の不時着(“사랑의 불시착”)

このドラマは本当に面白かった!ソン・イェジン演じる財閥令嬢にしてファッションブランドの社長でもあるユン・セリは、新製品であるパラグライダーのテスト飛行に自ら挑みます。ところが、意図せぬ竜巻により大きく飛ばされてしまい、気が付くとパラグライダーは木の枝に引っかかった状態で辛うじて墜落を免れていました。見慣れぬその森は、なんと軍事境界線を越えた向こう側=北朝鮮でした。そこに、朝鮮人民軍大尉であり、最前線の部隊の中隊長でもあるヒョンビン演じるリ・ジョンヒョクがユン・セリを見つけてしまいます。色々な偶然に助けられながらその場を逃げ出したユン・セリは森を走り抜け、無事に韓国側にたどり着いた…と思いきやそこはまだ北朝鮮の村だった、という展開。結局ユン・セリは北朝鮮で隠れながら、現地の人たちと交流したりしつつリ・ジョンヒョクとの愛を深めます。

のっけの展開から「ありえねー」という感じがするかも知れませんが、実は結構綿密な取材がなされているそうです。韓国の人が偶然北朝鮮側に行ってしまうという事件は実際にあったことでもあります(その時は空ではなく海、韓国西海岸の島嶼地帯でボートに乗っていた観光客が流されて北朝鮮側に一瞬入ってしまいました)。また、パラグライダーは無動力なのでエンジンがレーダーに捕捉されることもなく、理論的には南北両軍に感知されることなく北側に侵入してしまうことはありうるそうです。本当に「ありえねー」な展開はむしろ北側に入ってしまってからどんどん起こるのですが、多すぎて書ききれないので是非一回観てくださいとしか言えません。

個人的には、ドラマの中で描かれる北朝鮮の農村が、古き良き田園地帯という感じがしてグッとくるものがありました。あと、北朝鮮訛りの韓国語(朝鮮語)も、ヒョンビンはじめ俳優たちが一生懸命再現しているのもドラマの雰囲気を盛り上げてくれています。

また、キム・ジョンウン体制になり急速に資本主義を受け入れつつある北朝鮮社会も象徴的に描かれています。ユン・セリとリ・ジョンヒョクのカップル以外にも、もう一組南北朝鮮のカップルが登場するのですが、その舞台が北朝鮮の首都平壌で大きなデパートを経営する、トンジュと呼ばれる新興資本家階級の登場です。英語を話し、中国やヨーロッパとも貿易をしているらしい、今までの北朝鮮のイメージとはかけ離れた新しい風を象徴しています。ほかにも、南出身のユン・セリのご先祖様は北側出身、北出身のリ・ジョンヒョクのご先祖様は南側出身というように、南北朝鮮は分断されていても一つの民族、というようなメッセージは随所に散りばめられています。

ドラマの中でユン・セリとリ・ジョンヒョクは実はスイスで以前に出会っていたということが徐々に明らかになるのですが、スイスに限らず北朝鮮が国交を持つ国と言うのは実は世界のほとんどを占めていて(例外は韓国、日本、米国ぐらい)、中国をはじめとしたアジア諸国、ヨーロッパ、中東アフリカには北朝鮮の人は往来ができるので、考えてみれば南の人と北の人が海外で出くわしていた、ということは実は結構あるようです。ここ数年来の南北融和の流れの影響を強く受けたドラマであるという印象を持ちましたが、政治的なメッセージだけでなくドラマとしてストーリーも面白く、ついつい観てしまいます。

おすすめ その3:『サバイバー 60日間の大統領(“60일, 지정생존자”)

同じくネットフリックスで観れるアメリカの人気ドラマ『サバイバー 宿命の大統領(Designated Survivor)』の韓国版です。

アメリカ版と同じく、ドラマは冴えない大臣が大統領に解雇されるところから始まります。ミセモンジ(=PM2.5のような大気汚染)問題を解決することを期待され、韓国の名門大学であるカイスト(KAIST,韓国科学技術院)の教授ながら大統領によって環境部長官(日本で言うなら環境大臣)に任命されたパク・ムジンは、長官就任6か月目にして学者気質が抜けない、素人政治家。アメリカとの環境問題の交渉中、汚染物質のサンプルをアメリカ代表にぶちまけてしまうというスキャンダルまで起こし、その責任を取る形で大統領に解雇を申し渡されてしまいます。その日の午後、家族と一緒にいる時にに国会議事堂が爆破されてしまい、演説中の大統領、政府要員、多くの議員たちが一瞬にして命を奪われてしまいます。

衝撃を受けながらも国会議事堂に駆け付けたパク・ムジンを、青瓦台(チョンワデ、韓国の大統領府。アメリカで言うならホワイトハウスに相当)のSPが出迎え、大韓民国憲法の規定に基づき、落命した大統領の権限代行として韓国政府のトップに立つことになってしまいます。前代未聞のテロで混乱する政府と、北朝鮮による犯行であることを強硬に主張する軍部を率いることを突然求められるパク・ムジン権限代行。一気に緊張が高まる朝鮮半島領海に、日本が軍艦を侵入させるという緊急事態まで発生し、いきなり難しい決断を求められます。

アメリカ版と基本的な流れは同じですが、舞台を韓国、朝鮮半島にしたことで、アメリカ版とはまた違ったリアリティを持たせることに成功していると思いました。また、アメリカ版も韓国版も、「突然一国のリーダーになった時、人はどうすればいいのか」という主題を扱っている点では共通しています。安全保障の問題、権力闘争の暗部などを描きつつ、国会議事堂テロ事件の真相に迫るというサスペンス的な要素も両立させる力量は圧巻です。

こうして書いてみると私がハマるドラマや映画は、国家や安全保障をテーマとしたコンテンツに偏っている気がしてきました…今後は恋愛とかもっと明るい話を選んで観てみようと思います!

ツイッターの分散化に関する記事を読んでの所感

Noteで「SNSが変わろうとしている:Twitterの分散化方針をアナタは知っているか」という記事を読みました。ブロックチェーンやウェブ動向一般に興味を持つ身として、簡単に所感をメモしておきます。(それこそツイッターに書くことのリスクを感じたため。)

・ツイッターの創業者であるジャック・ドーシーは分散化プラットフォームの立ち上げに動いている。その理由は全世界を統括する一つのプラットフォームの限界を認識したこと、ブロックチェーンという分散化に適した技術が出現したことにある。

・国家や地域単位だけでなく、サーバー単位でのルール管理が可能になる。しかし、特定の思想に偏ったサーバーが乱立し、相互にブロックし合う可能性も生まれる。例えば日本国内ユーザーが中心の複数のサーバー同士が対立した場合、「結果的に本家(引用者注:アメリカ)Twitterサーバーから『破門』された双方は、争いをしない善良なサードパーティTwitterサーバーユーザーの目に入らなくなっていく。」という可能性もある。

・ツイッターは、ほかのスマホアプリのユーザー間のチャットツールのようなサブコンテンツにその姿を変えていく可能性もある。

・すでにツイッターは、いくつかの国では使用そのものがブロックされている。(例:中国)他方で、ユーザー単位では対立する思想の持主によるアカウントブロック合戦が激しく行われている。サーバー単位で独自の生態系が生まれるのだとしたら、おそらく今はユーザー単位で行われているブロック合戦がサーバー単位に拡大するのだろう。

・僕が「個人単位での内戦の時代」と表現する現象が、さらに拡大すると考える。個人単位での内戦の時代とは、政治的に対立する意見の持主とのバトルが、これまでの政党単位から個人単位になる状況を表現したものである。

・ブロックチェーンは癖のある技術だが、金融やジャーナリズムのような、抽象化が可能な領域における適応にはかなり相性がいい。ジャック・ドーシーの進めるツイッターの分散化も、おそらく実現してしまうと思う。

遠距離恋愛について その4

その年、というのは僕が3つ目の部署に異動した年だが、僕は彼女の誕生日に合わせて韓国で彼女とデートをすることにした。そしてそれはただのデートで終わらせるつもりはなかった。このデートで僕は彼女にプロポーズし、結婚を申し込むつもりだった。

僕は彼女と付き合う前に、まともに女性と交際したことがなかった。彼女との遠距離恋愛が僕にとって最初の恋愛であり、最後の恋愛でもある。要は多様な経験があるわけではないので、我ながらなんとなくベタなプロポーズの方法しか思いつかなかった。

韓国、ソウルに63ビルディング(63빌딩)という高層ビルがある。ソウルの中心を流れる漢江(ハンガン)という川を見下ろす、韓国有数の歴史ある建築物であり観光名所でもある。その最高階に近いフランス料理のレストランを僕は予約し、彼女と誕生日デートをすることにした。そこで僕たちは食事をし、デザートが出てきた頃に僕は改まって彼女に婚約指輪を渡し、プロポーズをした。

「僕と結婚してください。そして日本に来てくれませんか」

僕はそう言った。

その時の彼女の反応は何というか、複雑なものだった。まず、彼女は嬉しそうな顔をした。次に、うつむいてちょっと考え込むそぶりを見せた。やがて顔を上げたとき、彼女はちょっと悲しそうな顔だった。そして言った。

「ありがとう。気持ちはすごく嬉しい。私も結婚したい。でも、日本には行けない。結婚したくないわけじゃない。だから、この指輪を受け取るのは、”保留”させて。」

そう言って、彼女は婚約指輪を僕に「返却」した。プロポーズ失敗である。

僕は正直、彼女の気持ちを十分に読み取れていなかったと思う。そのころまで僕は、もしかしたら彼女が日本に来てくれるかもしれないという甘い期待を持っていた。お互い、自分の国で仕事を持ちながらの遠距離恋愛。二人とも、相手の国で留学や生活を一度もしたことが無い状態での遠距離恋愛。結婚し、一緒に住むためには、二人のうちどちらかが必ず今の生活を捨てなければならない遠距離恋愛。客観的に見ても僕たちが乗り越えるべき壁は高かった。そして、彼女が日本語が喋れない以上(僕たちの会話は全て韓国語だった)、彼女にしてみれば日本に移り住むことに対して僕以上に抵抗感があったのは間違いない。

今でこそ冷静にそう考えることができるものの、当時の僕は「もしかしたら」という一縷の望みにすがって彼女に求婚+日本移住を提案したのだった。そして結果は失敗だった。

プロポーズに失敗した僕は、落ち込んだ。正直、彼女と遠距離恋愛をする中で一番落ち込んだと言っていいかもしれない。そして、二人の将来について真剣に悩んだ。もはやこれまで、という気持ちにすらなった。当時は韓国での就職活動の糸口さえつかめていなかったのだ。

ソウルでのデートを終え、僕は飛行機に乗って東京に戻った。そして彼女とスカイプをした。そのスカイプの中で、彼女は僕の目の前で「次のデート」のためのソウル発東京行きの飛行機のチケットを予約した。

彼女は彼女なりに、僕からのプロポーズを「保留」してしまったことが申し訳なかったらしい。そして、僕たち二人の関係がまだまだ終わっていないことを示すために、わざわざスカイプしながら飛行機のチケットを取ったのだ。僕は絶望から少しずつ抜け出し始めた。今考えると、このプロポーズ失敗事件が、二人の関係の中で一番の危機だった。この事件の後、僕は韓国移住を決心した。そして、二人の関係を進展させることを急がないことに決めた。韓国での就職、韓国移住を本格的に準備することにした。(続く)

遠距離恋愛について その3

毎晩のビデオ通話、3か月に1回のデート。最初から遠距離恋愛をしていたにしては、僕たちは結構安定した関係を築いていた。そして、いつしかその関係性に慣れつつあった。

会社員の生活と言うのは不思議なもので、一日一日はなかなか過ぎないのに、一週間はあっという間に過ぎるし、なんなら一年くらいはあっという間に過ぎてしまうというところがある。これは社会人になったことのある人なら誰しも一度は感じることではないかと思う。そして僕たちは、それぞれの国で職場勤めをしながら、いつしか夜寝る前のスカイプを1時間ずつすることがすっかり習慣になった。

楽しい思い出もたくさんある。寝る前のスカイプだけでなく、カカオトークという韓国のメッセンジャーアプリを使って、短いメッセージをたくさん送りあった。日本でいうとLINEみたいなアプリである。僕のスマホに入っているあの黄色いアプリには、当初は彼女しか連絡相手が登録されていなかった。日本でほとんど知られていなかったというのもあるし、そもそも僕が彼女と連絡するためだけに使っていたというのもあった。道端で見かけたちょっとした風景を写真に撮って彼女に送ったりしていた。

また、紙の手紙もしたためた。東京かソウルでデートするときに手渡ししたこともあるし、彼女の住所に国際郵便で送ったこともある。その時の手紙は今でも残っているし、僕の韓国語のスペルミスとかも笑い話の種になる。ある意味、古典的な遠距離恋愛を楽しんでいたように思う。

しかし、僕たちがいくらお互いを好きあっていても、住むところが1,000キロ離れているという事実は変えようがなかった。

遠距離恋愛は男と女でとらえ方が違うという。男はなんだかんだで結構「慣れる」が、女はどうしても寂しさが募るという。僕たちの場合もそうなりつつあった。例えば、スカイプでビデオ通話しながらも、どうしても将来が不安になって、彼女が泣き出してしまうことがあった。僕がどんな言葉をかけても泣き止まない。僕も分かっていた。彼女が欲しいのは言葉じゃなくて、僕が横にいてあげられるという状況であることを。

僕にしても、誰かに恋愛の話題を出されるたびに、「付き合っている女性がいて、彼女は韓国人で、韓国で働いている」という説明を繰り返すことに疲れ始めていた。特に、周囲の人間のライフイベントが発生するたびに(恋人ができた、結婚した、子供が生まれた等)、僕は我が身を顧みて行く末を案じてしまうようになった。恋人がいなかった時代とはまた違った意味で、他人の幸せを素直に祝福できない状態であったとも言える。

何かをする必要があった。

その年、僕は会社の部署を異動になった。新卒で入ったこの会社での3つ目の部署だ。僕は新しい仕事にも、職場の人間関係にも慣れ、そこの仕事が気に入りだしていた。仕事内容が変わり、心機一転といった感じの今こそ、僕たち二人の関係を前進させる機会であると思った。

僕はその年の彼女の誕生日に行動に移ることにした。(続く)

[韓国旅行]テグ、プサンの旅[旧正月]

韓国は1月24日から1月27日まで旧正月でした。

旧正月のごちそう@妻の実家

僕も妻の実家に”里帰り”して来ました。

ソウル駅にて

ソウルからKTXという特急列車に乗ってテグ(大邱)という南部の都市まで。

快適なKTX

快適な車内で2時間はあっという間に過ぎます。

妻と一緒に妻の実家にて、ご両親にセベ(세배)という韓国式お辞儀をします。

韓国語での「明けましておめでとうございます」は、

「새해 복 많이 받으세요」(せへぽんまにぱどぅせよ)と言います。

妻の実家でゆっくりした後は、せっかく南まで来たので、ということで釜山(プサン)まで足を伸ばしてみました。

雨の釜山市内

が、あいにくの雨(泣)

というか土砂降り!!!!😭😭

雨の広安里(クァンアンリ)海岸

とはいえ翌日は雨もやみ、太宗臺(テジョンデ)という岬に遊びに行きました。

太宗臺より臨む

ここから見えたのはなんと…日本!!!

画面奥が対馬…見えにくいけど

釜山の南端まで来ると、日本の対馬(つしま)が肉眼で見えるんですね!

ちなみに対馬からも釜山が見えるそうです。そりゃそうか。

おまけ:展望台の猫

楽しい旧正月でした!

スタートアップとは「組織」ではない。客を見つける「行為」なのだ。

スタートアップとは「組織」ではない。客を見つける「行為」なのだ。

人々が、”自分ですら気づいていない”本当の問題を解決するための行為をスタートアップと呼ぶ。

自分ですら気づいていなかった本当の課題とは、偏見を持たず、じっくりと人々と会話することによってのみ、目の前に立ち現れる。

決して答えありきの質問をしてはならない。オープンクエスチョンの連続で、辛抱強く、一つ一つ聞き込みをしなければならない。探偵のように。

そして、人々が気づいていなかった”偏頭痛級の痛み”を見つけるまでその探偵チックな行為を繰り返す。この一連の行為のことをスタートアップと言う。

スタートアップは、したがって、企業などの組織のことを指すわけではない。

スタートアップとは行為なのだ。探偵なのだ。客を見つける探偵行為なのだ。真実はいつも一つ。

そして、スタートアップすることで”偏頭痛級の痛み”を持つ”客”を見つけるまでは、人は何もしてはいけない。勤めている会社を辞めてはいけない。貯金をおろして来てプロダクトを開発してもいけない。ただただ、”客”を見つけるまで探偵を続ける。

”客”とは、口先だけでなく実際にクレジットカードの番号を入力する、くらいの本気度をもって、探偵の提示した解決案に食いつく人のことである。

その解決案を提示するために、スケッチを描くとか、デモ動画を作るくらいはしてもいい。だが必要最低限の金のみを使うべきだ。

”客”を見つけて、売り上げが立つことが確信できて初めて、人は客のためのプロダクトを作り始めてよい。そのために人を雇って会社を作るくらいのことはしてもいいかもしれない。だがそれはもうスタートアップではない。スタートアップとは、客が見つかるまでの辛抱強い、疑い強い、偏見を持たない、探偵稼業のことなのだから。

ダイアナ・キャンダー (著), 牧野 洋  (翻訳)

STARTUP(スタートアップ):アイデアから利益を生みだす組織マネジメント

新潮社、2017年

韓国と日本と

たとえば日本人と韓国人がアメリカや中国みたいな”第三国”で知り合うと、あっという間に仲良くなるのは海外に住んだことのある人ならわかると思う。それだけ気質もよく似ているのだが、よく見ると違うところも結構ある。でも、「日本と韓国は違う」というのは、すごくレベルの高い問題(テストで言うと応用問題みたいなもの)なので、世界の人に説明する時には「日本と韓国はほとんど同じ」と説明するのが楽。でも英語圏の人でこの記事のように、ここまで観察している人は本当にすごいと思う。

遠距離恋愛について その2

僕たちは付き合い始めの時点から遠距離だった。

多くの遠距離カップルは、さすがに付き合い始めのころは一緒にいたのではないかと思う。何しろ「付き合う」というのは、「一緒にいる」ということとほぼ同一視されているのだ。

その点で僕たちカップルは変わっていた。交際のきっかけは僕の告白だが、それすら便箋と封筒を国際郵便で彼女に送ったくらいだ。交際前から頻繁にSkypeでビデオ通話をしていたが、僕の告白を彼女がOKしてくれたことから、毎晩決まった時間にビデオ通話をするようになった。

だから僕たちの経験は決して一般化できるものではないと思うが、それでも遠距離恋愛で悩んでいる人たちに何かしらのヒントのようなものが提供できればいいというのが僕のささやかな望みだ。

さて、改めて僕たちの遠距離恋愛はどんな感じで進行していったのかを振り返ってみたい。

彼女の居住地はソウル(大学生)→ヨーロッパ(交換留学先)→ソウル(大学生、社会人)と変わっていった。

一方僕はずっと東京在住だった。

正直、彼女が大学を卒業し社会人になるにあたって、日本に来てほしいという思いが無かったわけではない。先に社会人になっていたのは僕の方だったのだから。それでも、彼女には自分のキャリアを描いてほしい、僕たちが一緒になるのはそのあとでも構わないと思った。いつかは結婚したいと思いながら、結婚を焦ってはいなかったように思う。

結局彼女は韓国で就職した。僕のほうは相変わらず東京で働いていた。僕たちは毎晩のようにスカイプで1時間~2時間ビデオ通話し、何かにつけてカカオトークで写真やメッセージを送りあった。僕たちの会話は、最初は英語で行われていたが、僕がだんだん片言の韓国語を覚えると、英語より韓国語のほうが日本語にずっと近く、細かいニュアンスまで伝えられることもあって、韓国語で話すのが当たり前になっていった。気づけばTOPIK6級などという資格も取っていたし、考えてみれば語学の問題もあって僕が韓国に行くことが、僕たちカップルの暗黙の了解になっていたのかも知れない。

お互い会いたくてたまらなかったが、お金の問題もあり、実際に会えるのは3か月に一回といったところだった。四半期決算のような話だが、勤め人をしながら金を貯めるとなるとどうしても会社のリズムに近くなるものらしい。僕が韓国に行くことが多かったが、彼女も時々日本に来た。ソウル市内でデートしたり、韓国の地方都市に足を延ばすことも多かった。韓国は国内交通網がよく整備されている上に安いので、地方旅行は結構快適で楽しかった。彼女にしても、東京でデートをすることは僕に会いながら日本のあれこれを体験できる楽しい時間だったと思う。遠距離で始まった僕たちの恋愛関係は、いつしか遠距離で時々会うことが当然のようになっていった。

(続く)

遠距離恋愛について

僕たち夫婦は遠距離恋愛のサバイバー(生存者)である。

遠距離恋愛というのは、カップルが物理的に離れていることを意味する。僕たちカップルの場合は、僕が東京で彼女がソウルに住んでいた。6年半遠距離で関係を続けたのちに、最終的に僕が韓国に移住し、結婚した。

6年半の遠距離恋愛、かつ海外との遠距離恋愛というケースはあまり多くないと思う。さらに言えば、男性の方が移住するケースはさらに少ないと思う。

もしかしたら昔の僕と同じような境遇で未来の心配をしている人がいるかもしれないので、そんな奇特な人のために僕の経験したことをこれから書いていこうと思う。

僕は日本生まれ日本育ちの日本人である。彼女は韓国生まれ韓国育ちの韓国人である。では僕たち二人はどこでどう知り合ったのか?

僕たちは、僕の大学の格闘技サークルを通じて知り合った。僕の大学と、彼女の大学には交流があったため、毎年交流戦があった。僕と彼女はそこで知り合った。

が、その時は本当に「知り合った」だけで、連絡先を交換したくらいだった。しばらくはメール友達のような形で、連絡を取り合っていた。正直なところ、当時は付き合うことになるとは思っていなかった。

その年の秋に韓国に遊びに行った。彼女は交換留学で、ヨーロッパに行っておりソウルにはいなかった。僕はソウルで彼女と僕の共通の友人と食事をしながら、僕の妻になる女性が僕のことをすごく好きであるということを聞いた。「いい子なので、よろしくお願いします」と友人は冗談めかして言ったものだ。

変な話だが、その話がすごく心に響いた。メールの交換は楽しかったが、付き合うというほどではなかった。でも友人氏から、彼女が僕のことを好いていてくれているという話を聞いた後では、意識せざるを得なかった。僕たちはメールに次いでFacebookの友達になり、Skypeを交換し、毎晩ビデオ通話するようになった。彼女の誕生日に合わせて手紙(Eメールではなく紙の手紙)を送って交際を申し込み、年末年始のヨーロッパで彼女と久しぶりに対面してデートした。

彼女と僕は正式に遠距離カップルになった。その時点で彼女は留学期間が残っていたので、最初から僕たちはSkypeでデートするカップルだったと言える。半年後、彼女が韓国に帰国してから僕はまた彼女に会いに韓国に行った。その時のデートで言われた言葉を覚えている。

「こうして会えるのはすごく嬉しいけど、これから私たちどうしよう?」

彼女はまだ学生だったが、僕は東京で社会人として働いていた。かといって僕も彼女に韓国を捨てさせるようなことはしたくなかった。彼女も同様で、

「お互いのヒセン(犠牲)が大きいよね」

とため息をついていた。僕たちの国際遠距離恋愛はまだまだ始まったばかりだったのだ。

(長くなってしまったので続きは次の投稿で)

韓国の公共交通機関における「妊産婦配慮席」について

韓国の妊産婦配慮席(임산부배려석)についてツイッターで紹介したところ、思ったより反応があったのでブログにまとめたい。

日本でも痛ましい事件が絶えないが、韓国でも妊産婦が満員電車に乗車する際に十分な配慮がされにくいことは社会問題であると認識されている。そこで、ソウル首都圏や釜山、その他大都市の多くの地下鉄やバスで妊産婦配慮席というのが配置されている。これは従来の老弱者席とは別個である。

韓国の地下鉄における妊産婦配慮席
出典: https://m.insight.co.kr/news/215717

これが妊産婦配慮席である。ソウルに旅行に来たことのある人なら、空港とソウルを結ぶ空港鉄道という列車の車内や、ソウル市内の地下鉄車内で見たことがあるのではないだろうか。

この妊産婦配慮席だが、誕生のみならず運用でもかなり苦労しているようだ。本来は妊産婦のために設けられた席だが、そもそも誰が妊産婦なのかは見た目では分からないことも多い。 また、ラッシュアワーに利用してみればわかるが、混雑時にはこの席だけを空けておくことはまずない。

上の写真(ネットでの拾い物)のように、ソウル首都圏の空港鉄道では、人形を置いておくことで、本来は妊産婦配慮席は妊婦専用の席であることを訴えている。乗客は人形をわざわざどかさないと座れない。だがもちろん、人形など意に介さず座ってしまう乗客も多い。年配の乗客などはこの人形の「上に」座っているのを時々見かける。また、前述のように混雑時にはそもそも妊産婦配慮席を空けておくことのほうが珍しい。

地下鉄の車内だけでなく、インターネット上でも論争が見られる。女性嫌悪的なコメントは、妊産婦に配慮すること自体に懐疑的なスタンスから妊産婦や女性全般を攻撃している。ここでは、論争について紹介したオンライン上の記事を一つ紹介しておくにとどめよう。

「一か月に5600件の問い合わせ…地下鉄妊産婦配慮席の”配慮にかける”現実」韓国日報

ではどうすればいいのか?妊産婦は体力的に大衆交通の利用が困難なのは明らかだ。妊産婦に配慮することは社会的に当然に見える。他方で、悪意のある乗客や、悪意はなくとも配慮する気のない乗客も多数いる。これらを考慮しつつ必要な時に妊産婦が配慮席に座ることができる運用が実現できないだろうか?

一つの解決案が釜山から提示されている。釜山地下鉄では「ピンクライト」というシステムが導入されている。これは妊産婦配慮席に固定ライト(「ピンクライト」)を設置し、一定の手続きに従って妊産婦に配布された「ビーコン」を操作するとピンクライトが光るというものだ。

釜山地下鉄の妊産婦配慮席の「ピンクライト」とビーコン。
出典: http://m.etnews.com/20191231000060
釜山地下鉄のピンクライトは、妊産婦がビーコンを操作すると点滅する仕組み。
出典: http://www.kookje.co.kr/news2011/asp/newsbody.asp?code=0300&key=20180917.99099006987

ピンクライトは、妊産婦配慮席に既に乗客が座ってしまっている状態で、席を譲るよう声をかけるのがためらわれるという妊産婦の声にこたえる形で導入されたらしい。ライトが光ったら妊産婦が近くにいる、あの妊娠マークを見たら譲りましょう、という啓蒙とセットで運用されている。

また、ソウル大学のスタートアップ와이닷츠(WhyDots)は、ビーコンのアプリ代用によるピンクライト導入を交通公社に提案した。この提案は受け入れられなかったが、「ホームに来る電車の妊産婦配慮席をアプリで事前に予約」というUXはかなりいい線行っていたと思う。

ソウル大学のスタートアップ・WhyDots(ワイダッツ)によるアプリのデモ映像

ちなみに 僕が何故そんなマニアックなプロジェクトまで知っているかというと、そのスタートアップに一瞬だけ絡んでいたから。WhyDotsはその後ピンクライト関連からピボットして、認知症予防用の喋るロボットの開発に取り組んでいるので興味ある人は調べて見てほしい。

3Dプリンターを使って起業する韓国のスタートアップに関する報道

話がちょっと脱線してしまったが、韓国では社会問題に対して結構真正面から取り組んでいるということが言いたかった。交通公社が妊産婦配慮席を作ったのもそうだし、ピンクライトを追加したのもそうだし、さらには元気のいいスタートアップがテクノロジーでそれを改良しようともしている。

本来ならば、妊産婦配慮席など無くても乗客が席を譲ってくれるのが一番いい。僕もプロジェクトに関わる中で、妊産婦対象のアンケートを取ったことがある。その中で本当に多くの妊産婦が、身体的な苦痛に加えて社会からの悪意に苦しんでいることを知った。女性にしか見えない世界が確かにあった。

参考

ツイッターのハッシュタグ #男と女で見えてる景色が違う