最近、中国語の記事を読んでいて興味深い表現に出会った。
「抢自己的饭碗」
直訳すると「自分の飯碗を奪う」。
日本語で言えば、「自分の仕事を自分で奪う」という意味だ。
生成AIが普及し始めた今、多くの知識労働者が感じている不安を見事に表現している。
自動化の対象が変わった
これまでも企業は自動化を進めてきた。
例えばRPA(Robotic Process Automation)。
Excelを開く。
データをコピーする。
メールを送る。
こうした定型作業をソフトウェアに置き換えてきた。
しかし生成AIが目指しているものは少し違う。
今、自動化の対象になっているのは、
- 人間の経験
- 人間の判断
- 人間の意思決定
である。
単に「何をやるか」ではなく、
「その人がどうやってやるか」
まで学習しようとしている。
「蒸留」という発想
記事の中では「蒸留(Distillation)」という言葉が使われていた。
企業は社員に対して、
「仕事のやり方を文書化してください」
「ノウハウを共有してください」
と求める。
その目的は知識共有だ。
しかし別の見方をすれば、
「その人の頭の中をデータ化している」
とも言える。
営業であれば、
- どの顧客にどうアプローチするか
- どのサプライヤーに聞くか
- どの情報を重要視するか
こうした判断基準までAIに学習させることが可能になる。
つまり、単なる業務マニュアルではなく、「その人らしさ」そのものがデータ化される。
反蒸留という発想
さらに面白かったのは、「反蒸留(Anti-Distillation)」という考え方だ。
社員が知識共有を求められた際、
表面的な情報だけを共有し、
本当に価値のあるノウハウは残しておく。
企業が知識を集めようとするなら、
個人は知識を守ろうとする。
そんな攻防が始まっているらしい。
まるで新しい時代の労使関係のようだ。
本当に奪われるのは何か
ただ、私は少し違う見方をしている。
AIが奪うのは知識だ。
しかし、
- 信頼
- 人間関係
- 実行力
- 責任を取る能力
までは簡単に奪えない。
例えばAIは、
「DDR4の価格がなぜ上がるのか」
を説明できる。
しかし、
「顧客を説得して今週中に発注をもらう」
ことはできない。
知識はコピーできる。
だが、成果はコピーできない。
価値創造の時代へ
だからこれから重要になるのは、
「何を知っているか」
ではなく、
「何を実現できるか」
だと思う。
知識そのものはAIが持つようになる。
しかし、
その知識を使って新しい案件を作る人、
新しい顧客を開拓する人、
組織を動かす人、
の価値はむしろ高まるかもしれない。
産業革命が肉体労働を変えたように、
生成AIは知識労働を変えようとしている。
私たちは今、その入り口に立っている。
そして問われているのは、
「AIに何を教えるか」
ではなく、
「AI時代に自分はどんな価値を生み出せるか」
なのだろう。