私は腰痛持ちである。もともと腰が弱かったが、20代前半に大けがをして以来定期的にぎっくり腰が来るようになった。
20代前半、私はテコンドーという韓国の格闘技を練習していた時期がある。その練習中に、いきなり背中から腰にかけて激痛が走り、動けなくなった。難易度の高い技を練習していたのは確かだ。右ミドル、左ミドル、右ミドル、ジャンプからの左ハイ(ジャンプした脚でそのままハイキックするのだ)というコンボを、脚を換えてひたすら繰り返していた。その程度の技なら練習ではよくあることだった。にも拘わらず、その日私は激痛に襲われた。
心当たりがないわけでは無い。その前週、私は東京マラソンに出場し、フルマラソンを完走していた。足腰にかなり疲労がたまっていたのは事実だ。その状態で難易度が高いテコンドーの技を練習した結果、腰が限界を迎えたのだろう。その日は這うようにして家に帰り、次の日から会社に謝りの電話を入れ、休養を取った。よく休ませてもらえたと思う。もっとも出社しろと言われても出社できる状態ではなかったが。寝返りも打てない状態が数日続いた後、整形外科に行った。レントゲン撮影の結果、幸いにして骨や神経に異常はないとのことだった。物理治療(マッサージ等)を数週間受けたが、以前のようには自信をもって運動に挑めなくなった。1年ほどは、運動らしい運動もせずに生活するようになったと思う。テコンドーはもちろん、ジョギングすら数キロ走るだけで腰が痛くなり、しまいには怖くてできなくなった。
この文章は懺悔の文章である。愚かだった若いころの自分を振り返って、反省文を書いているのである。当時の私は、テコンドーという本格的な格闘技に挑むだけの十分な肉体的準備が出来ていたとは言い難い。酒は飲む。ジョギングのような有酸素運動は好きだが、筋トレを含む無酸素運動は碌にやらなかった。ストレッチも、自分の体の特性を理解して行っていたとは言い難い。それら準備不足すべてが、ぎっくり腰に繋がったと言える。
今では私は普通の日常生活を送ることができる。それはこのいわば「テコンドー・ショック」から今に至るまで、少しずつ腰や身体全体の管理方法を見つけてきたからだ。それは、自分自身の体についての「発見」の過程であったと言える。ここからは、ぎっくり腰に悩む人や、体が弱い人、そして何より自分自身のために「ぎっくり腰に関する発見」を書いていきたい。
発見その1:世の中には腰の強い人と腰の弱い人が存在する
当たり前じゃないかと言われるかもしれない。だが、個人差というのは本当に大きいものだ。例えば、中学の部活などでやった(はずの)「腹筋運動」を思い出してもらいたい。仰向けになり、膝を立てた状態で上体を起こすあの運動だ。私は腹筋運動をするだけで腰が痛くなったものだ。ぎっくり腰になる前までは、自分の筋力不足だと思っていたが、色々な運動を行った結果、私は「上半身を前方に曲げる」動作全てが腰痛に直結する体質なのだと分かった。
今では私は、腹筋を鍛えるためにあの上体起こしは行わないようにしている。代わりにスクワット等別の運動を行っている。腰の強い人にとっては何でもない運動も、腰の弱い人には致命的になりうるので、自分自身の体質を見極めたうえで、自分にあった運動を”取捨選択”していくことが重要だと思う。
発見その2:ぎっくり腰は「決して無くならない」。だが、「痛みを減らす」「治りを早くする」ことは可能である。
体質なのか、私の怪我が深刻すぎたのか、テコンドーでの大怪我以来、私は定期的にぎっくり腰を発症する。頻度は1年に2回くらいである。一生この痛みと付き合っていかなければならないのかと考えると憂鬱になるが、いいニュースもある。それは、後述する運動を日常的に行うようになったことで、半年に1回訪れるぎっくり腰の「痛みが減った」ことと、「治りが早くなった」ことだ。
テコンドーの練習中に激痛に襲われたときは、本当に寝返りも打てない状態が3日くらい続いたと思う。もっとも、強烈すぎて記憶が変わっている可能性もあるが。だが、適切なストレッチや筋トレを行うようになった今では、寝返りも打てない状態というのは1日も続かなくなった。日常生活に復帰するまでの時間も、3日程度まで縮まった(以前は1週間)。何よりも、自分の体について知ることで、体のどの部分をどう動かせば痛いのか痛くないのかが分かるので、心に余裕が生まれた。ぎっくり腰というのは筋肉の炎症なので、究極的には時間が薬であるのは変わらないが、自信をもってぎっくり腰が収まるのを待てるようになった。
発見その3:「腰」は常に被害者である。加害者は人体の2大関節(股関節と肩関節)である。2大関節のメンテナンスを通じて、腰への被害を最小化することができる。
考えてほしいのだが、腰そのものを使う運動というのはほとんど無い。それは、腰というのは上半身と下半身の連結部分であり、運動機能を持たないからである。そして、上半身と下半身での血流が滞ると、次第に腰への負担が溜まっていく。最終的には些細な動きが”the last straw”(最後の一撃)となり、ぎっくり腰が発症するのだ。その意味で、腰とは上半身と下半身の機嫌に左右される可哀そうな弱者であるということができる。
では、腰を守る方法は無いのだろうか?そんなことはない。上半身と下半身での血流が滞ることがぎっくり腰に繋がるのであれば、ぎっくり腰を防ぐためには上半身と下半身の血流を良く保てばいいのだ。血流を保つためにはどうすればいいのか?定期的なストレッチと筋トレ、これを行うしかない。特に、関節部の状態を良く保つことが重要だ。上半身なら肩甲骨の関節、下半身なら股関節が、人体最大の関節である。これら関節に適切な運動を行うことで、腰への負担を最小化することができる。
1.肩関節のストレッチ(画像が無くてすいません…):
1-1.正座をし、バンザイの姿勢で上体を床に(前に)倒す。無理のない範囲で出来るだけ腕を前に伸ばし、その状態を30秒ほどキープする。礼拝みたいなイメージ。
1-2.1-1の状態から、右腕を引いて、右手の甲をおでこの下に置く。すると左手がさらに前に伸ばせるので、伸ばす。左の肩甲骨が引っ張られるのを感じながら、30秒ほどキープする。反対の腕でも同様に行う。
1-3.1-1の状態から、右腕を引いて、胸の前で左腕とクロスさせるように左側に倒す(右腕は左腕の下に来る)。右の肩甲骨が引っ張られるのを感じながら、30秒ほどキープする。反対の腕でも同様に行う。
2.股間のストレッチ(画像がなくてすいません):
2-1.アキレス腱伸ばし。自然に歩く姿勢から、右脚を一歩前に出す。左足は進行方向まっすぐ前を向ける。右脚を曲げ、左脚のアキレス腱をゆっくり伸ばす。30秒ほどキープ。反対側も同様に行う。筋肉は繋がっているので、腰から一番遠いアキレス腱や足首の筋肉をストレッチすることで、腰への負担も減らせる。
2-2.股割。両脚を肩幅よりも大きめに開く。両足を外に向ける。ゆっくり腰を落とし、両膝が90度になるくらいまで落とす。その状態で15秒ほどキープ。数回繰り返す。野球選手のイチロー氏が、バッターボックスに入る前にこのストレッチを行うのをご存じの方も多いと思う。
2-3.尻のストレッチ。仰向けに寝る。右脚を立てる。左脚を右脚の上に乗せる(仰向けの状態で、足を組むイメージ)。右ひざの前で両手を組む。この時、左手は左脚の下をくぐるようにする。その状態でゆっくり両脚を右側に倒していく。すると左お尻の筋肉が引っ張られる。その状態で30秒ほどキープ。反対側も同様に行う。このストレッチをすると本当に劇的に腰痛が改善される。
3.上半身と下半身の両方に効くストレッチ(画像なし)
床に座る。左脚を伸ばし、右脚は閉じる(右足が股の前にくる)。両手を組んだ状態で両腕を頭の上にあげ、左脚に向かって上体をゆっくり倒す。すると左脚の裏(ハムストリングス)が伸びるのを感じる。また、右の肩甲骨や、右の脇腹の筋肉が伸びるのを感じる。30秒ほどキープする。反対側も同様に行う。
以上のストレッチを行うと上半身、下半身の血流が劇的に良くなり、腰痛が緩和されるだけでなく日常生活も快適に送れるようになる。これに加えて筋トレ(無酸素運動)を定期的に行うことで、さらに恒常的な健康増進が実現できる。
最後に繰り返し述べると、以上のようなストレッチを行っても、ぎっくり腰そのものは定期的にやってくる。これは体質上避けられないようだ。だが、それでも「自分の体調は自分でコントロールできる」という自信を得られることは、ぎっくり腰と今後の人生も付き合っていく上で、この上ない財産である。